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失われた町

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30年に一度起こる町の「消滅」。忽然と「失われる」住民たち。喪失を抱えて「日常」を生きる残された人々の悲しみ、そして願いとは。大切な誰かを失った者。帰るべき場所を失った者。「消滅」によって人生を狂わされた人々が、運命に導かれるように「失われた町」月ケ瀬に集う。消滅を食い止めることはできるのか?悲しみを乗り越えることはできるのか?

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三崎亜記さんの本です。

既刊の三崎さんの本、これで制覇です。
となり町戦争で知った作家でしたが、前回のバスジャックと今回の失われた町で好きな作家になりました。

となり町~は、確かに発想も新しくて上手いのだけれど・・むしろ賞を取るならこっちじゃないか?と思えたくらい、物凄く読後に様々な思いを残してくれる一冊でした。

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三崎さんが描き続けてきたというのは、何か特別な存在なんだろうか?
既刊の3冊に於いても、またアンソロジーに収録されている短編を読んでも、この作家にとっては、をテーマにしたものは特別な思いいれがあるのだろうか?

それほどまでに主題とされ、三崎さんが描いているのは、特殊な『町』なのだ。

今回は、突然に失われてしまう町を描いている。

「死」ではなく「消滅」。

人々は事前に町が失われる事を把握しながら、自らにその消滅を受け入れることしか出来ない。
外部にその事実を知らしめようとすると、たちまち「町」の強い力によって遮断される。

「失われた」恋人、友人、家族・・

死ではない。故に公に悲しむことは禁忌とされ、そしてその消滅した町の名前が残る痕跡(写真、本、その他その町に関わる全て)を回収員が回収する。

残されたものには、失われた者の思い出の「物」は残らない。
思い出の中でだけ、ひたすらに生き続ける。

失われたはずの町に、ただ一人残された者。
次に起こる町の消失の手がかりにと、幼い頃から様々な実験材料として使われる。

失われた町で残った町の名前や絵、町に関わったもの、そして残された人間は、世間から「汚染者」として冷たい眼差しを向けられる。

今度消滅するかも分からない町を食い止める為に、研究員となり、感情を押し殺し日々を町の為に費やしていく人々。

汚染によって、言葉を失う者。目が不自由になる者。

町は、意思を持つかのように今でも人々を取り込もうとする。

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そんな失われた町に関わる人々の視点を、様々な角度から描いたこの話は、どうにもならないという理不尽さと、それでも希望を持って生き続けるという様が対照的に描かれる。

様々な形で町の消失を阻止すべく関わっていく人々の話が、最後にはようやく一つにまとまる。

それは酷く悲しく、それでも希望に溢れている。

読むのは結構大変だった。
だけれども、読む価値のある物語だったと言える。

本当に新しい視点で物語を紡ぎ出すこの作家の魅力に、私は今頃になって気付かされたのだ。