No-music.No-life

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失はれる物語

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目覚めると、私は闇の中にいた。
交通事故により全身付随のうえ音も視覚も、五感の全てを奪われていたのだ。
残ったのは右腕の皮膚感覚のみ。
ピアニストの妻は、その腕を鍵盤に見立て、日々の想いを演奏で伝えることを思いつく。
それは、永劫の囚人となった私の唯一の救いとなるが・・ (「失はれる物語」)

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書き下ろし「ウソカノ」「ボクの賢いパンツくん」を含む、失はれる物語文庫版です。

天才乙一さんの作品です。

これは、文庫の新刊を買った時に入っていた広告?で知りました。

一度この本は単行本で友人から借りて読んでいるのですが、(書き下ろし&マリアの指)以外はこれで3回目です。

結末を知っているのに、何でどこで結末が読めるのか気づけない。
凄すぎる。

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Calling You

友人がいない、今時携帯電話を持たない女の子、リョウ。
想像した。
自分だけの携帯電話を。
永久に通話料が無料で、自分だけの携帯電話を頭の中で何よりもリアルに想像した。

そして、あり得ないことが起こる。
まさかその頭の中の携帯に、電話がかかってきたのだ・・!

電話の相手は、リョウと同じように友人もいない、携帯電話を持っていない男の子、シンヤ。
そのシンヤとは、一時間の時差があった。

日に日に親しくなる二人。
そして、実際に会って見ようという話になり-

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この話は、文庫版きみにしか聞こえないに収録されていました。
とても印象に残りました。

私が携帯を持ったのは、高校一年の3月でどんどん周りの子が携帯を持ち始める事に不安を覚えていました。
携帯のない時代は、どうやって皆と連絡を取り合っていたんだっけ?
とふと思い出したのでした。

結末が、悔しくて悔しくて・・。

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失はれる物語

表題作。
冒頭が、この話です。

夫婦喧嘩をした翌日、事故に遭い全てを失った男。

五感を失い、右腕の皮膚感覚だけが残り絶望する日々。
それでも、毎日お見舞いに来てくれる妻。

その腕に、色々な音をつむぎ出してくれた。
毎日、毎日。

何年も経ち、男は妻の想いに気づく。
紡ぎだす音に、少しずつ戸惑いや苦しさを感じ取るようになったのだ・・。

妻は、自分のせいで人生を狂わされてしまったのだ。
毎日毎日・・病院に通うだけの日々に。

そして男は、ある方法を思いついてしまった・・

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悲しい物語です。
若く美しい妻と、もう一生回復しない傷を負った男。
結末は、とても美しくて残酷です。


オレの小学校には、特殊学級というものがある。
どうしようもない親父につけられたアザをしてきされたことが原因で、クラスメイトに暴力を振るったオレ。
そして、特殊学級に入ることが決定した。

その学級には、色の白い美しい顔をした小柄な少年・アサトがいた。
アサトは、何故か一言も口を利かなかった。

ある日。
カッターで腕を怪我してしまったオレにそっと近づいたアサト。
ふいにその腕に触れる。

そして・・何故かアサトの腕に、同じような傷が出来ているのだった。
オレの腕の傷は、半分になって・・

「傷の深さも、痛みも半分ずつ。二で割って、はんぶんこだね」

アサトは言った。

それから、色々な人の傷をもらっては自分を苦しめていくアサト。
いつしか傷だけではなく、残ってしまった火傷やアザまでもを移動できるようになっていた。

ある日、泣き止まない子供の傷をもらったアサトと俺。
そのお礼に受け取ったアイス屋の店員、シホと仲良くなる二人。

シホには、顔に醜い火傷があった。
いつもマスクをしているシホは、とても辛そうだった。

3日間だけ火傷を移動させる、という条件を引き受けたアサト。
しかし・・・

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二人の少年の、生い立ちが悲しい。
両親に愛されなかった二人も、最後には優しい結末でしめくくられます。

こんなにも優しい少年がいたら、現在の世の中では悲しいことばかりなんでしょう・・。


自分のデザインした腕時計を、沢山の人に使ってもらうことを夢見る男。

しかし、そのデザイン会社でも売れ行きが芳しくない。
このままでは、新デザインの腕時計の生産も危うい。

そのための資金が必要だった。

ある時目にした叔母の宝石と分厚い封筒。

叔母の止まる宿の部屋の壁は、もろく壊せそうなものだった。

そして、男はそれらを盗むことを決意する。
壁に丸い穴をあけ、そこから宝石を盗む計画だった。

・・順調に穴を開け、さて手を入れて取り出そうとすると・・

なんと、女の子の手を掴んでしまった!

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ラストが、何かニヤっと笑ってしまう結末です。
何か凄いですね!

幸せは子猫のかたち

人との接し方に悩み、一人で暮らすことを決めたぼく。

その家には、偶然に強盗に殺されたという女性・雪村サキがすんでいたのだという。

家具も何もかもがそのままになっており、ほとんど荷物も持たずにその家に越してきた。

そして、不思議な現象が起こる。

消したはずのテレビがついていたり。
閉めたカーテンが開いていて、眩しい光が差し込んでいたり。

気のせいだと思っていた。
しかし、その家に残されていた子猫が何かの気配を追いかけているようだ。

雪村サキなのか?

しかしぼくにはその姿が見えない。

だんだんと、それはぼくの生活になじんでくる。

包丁の音でおき、朝食と暖かいコーヒーが食卓に並んでいる朝。

彼女の存在は温かく、心に触れるものがあった・・・


大学で親しくなった村井。
近くの池でおぼれ死んだ人が、村井の友人だったという・・・。

ある日、子猫がいなくなる。
村井と一緒に探し回るぼくだったが。。。

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この話を読んだとき、なんともいえない気持ちになってしまってどうしようもありませんでした。

温かく、優しく、切ない物語です。

彼女が死んでいなければ出会えなかったぼく。

生きて出会えたらよかったのに・・と思ってしまう。
そうしたら、ぼくも変われたかもしれないのに、と。

マリアの指

鳴海マリア。

不思議な存在感を放つ女性。
とてつもない美人で、ある人はマリアを崇拝し、あるものは恐れた。

突然の死。

電車に飛び込んで自殺したというマリア。

マリアの指でなでられ気持ちよさそうにしていた猫。
猫が大事そうに銜えていたのは、マリアの白く美しい指だった。
恭介は、偶然その指を見つけてしまう。

ホルマリン漬けにし保管する。

マリアの指がどこかにあるはずだと探し続ける芳和・マリアの元恋人。
突然のマリアの死にショックを隠しきれない恭介の姉・マリアの幼馴染。
指を拾ってしまい、マリアの死の謎を解き明かそうとする恭介。マリアに淡い想いを抱いていた。

不可解な死の謎。
少しずつ衰えていく体力。

自殺なのか?他殺なのか?
真相は、意外な結末・・・

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犯人が、意外です。
多分おおよそ殺人犯とは予想できない人間。
でも、そう思っていると騙されます。

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とまあ、こんな感じです。
書き下ろしは、実際に読んでみてのお楽しみということで。
敢えて紹介しませんでした。

しかし凄いぜ乙一さん!