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卒業するわたしたち

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この涙は、どんな涙ともきっと違う。

吹奏楽部の1年後輩の男子に密かに思いを寄せる先輩女子が、告白できずに卒業していく「流れる川」。離婚する妻が夫との最後の会話のなかで、下の名前ではなく「あなた」と呼ばれたことを印象に残す「春の雨」。二十八歳の娘が、仲の良い母の再婚を自分のなかでようやく祝福できる気持ちに至る「母の告白」。
女性アイドルグループのメンバーが脱退することを知った、ある女子ファンの心情を追った「にじむオレンジ」。仲良しの少し不良の女子高生から、上京してしまうために様々なプレゼントをもらうことになる女子小学生を描いた「屋上で会う」。
――単なる卒業式、恋愛絡みに留まらない、様々な年齢、様々なシチュエーションのそれぞれの卒業模様を精緻に描きとった、どこからでも読むことのできる1話完結の短編集。


加藤千恵さんの本です。

やっぱり加藤さんは言葉の使い方が秀逸。

「学校からの卒業」をテーマにした本はいくつもあるけれど、本作は「卒業」そのものをテーマにした短編集です。

学校、教習所、恋人、家族、アイドル・・・様々な卒業をテーマにした短編の冒頭には短歌が。

その短歌から不思議と鮮明に情景が浮かんできて、そのあとに続く物語にもより深みが増しています。

ダメ彼氏が度々登場するものの、どこか憎めなくてほろ苦い。
この絶妙な切なさ加減を表現できるのが加藤さんだと思います。

巻末には朝井リョウさんと加藤さんの対談も収録されており、朝井さんが加藤作品の魅力を的確な言葉で表現してくれているので、ぜひ巻末対談まで読んでほしいです。

(4点)