みんながやっているような恋愛が、わたしにはできない。別に構わない。わたしなりに幸せだし、毎日は楽しい―様々な葛藤と不安の中、様々な恋に身を委ねる女の子たちの、様々な恋愛の景色。苺、さくらんぼ、玉ねぎ、マスカット。そこには、彼女たちを静かに見守る食べ物たちがいて。複雑な想いを綴る短歌と、何かを言いたげな食べ物たちに彩られた恋愛短編集にして、普通ではない恋愛に向き合う女の子たちのための免罪符。
加藤千恵さんの本です。
最近気になって何作か読み始めた加藤さん。
これはもろ恋愛小説だろうなあと、やっぱり恐る恐る読み始めたのですが、なんと秀逸な恋愛小説集だろう。
短編で物凄く薄い本なのですぐ読めちゃったんですが、この短い話に反して残る余韻よ・・・
各短編の最後に短歌が入る訳ですが、これがまた何ともいえず絶妙。
「空はよく晴れててパンは甘くってあなたのことは何も知らない」
「今すぐに大人になりたいわけじゃない あたしはあたしじゃなくなりたいだけ」
何作か読んだ加藤さんの本は、恋愛小説といえど、直接的な性描写があるものがたまたまなのかなかった気がします。
それに反してこの本は全てが体の関係を中心に据えた物語。
しかしその相手は、浮気とも言えない表現しようのない脆い関係であったり、好きでもない相手であったり、友達以上だけど恋人でもない、微妙な関係。
体はこれでもかというほど密接に繋がっているのに、心はどこまでも離れている。
やっぱりどの作品も明確な結末や答えは書かれないのですが、それがまた独特の余韻を伴って短い話なのに後を引きます。
うーん、加藤さん、上手い。凄くいい。
官能的な場面のはずなのに、いやらしさをあまり感じないのも加藤さんの表現力だからこそ。
この人天才じゃなかろうか。
他の作品も恐れず読んでみよう。
(4点)