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スペードの3

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ミュージカル女優、つかさのファンクラブ「ファミリア」を束ねている美知代。大手化粧品会社で働いていると周りには言っているものの、実際は関連会社の事務に過ぎない彼女が優越感を覚えられるのは、ファンクラブの仕事でだけ。ある日、美知代の小学校時代のクラスメイトが「ファミリア」に加盟する。あっという間に注目を集めた彼女の登場によって、美知代の立場は危うくなっていく。美知代を脅かす彼女には、ある目的があった。
華やかなつかさに憧れを抱く、地味で冴えないむつ美。かつて夢組のスターとして人気を誇っていたが、最近は仕事のオファーが減る一方のつかさ。それぞれに不満を抱えた三人の人生が交差し、動き出す。
待っているだけではなにも変わらない。私の人生は私だけのもの。


朝井リョウさんの待望の最新刊。
 
これはなんというか・・・辻村さんの作品を読んでいるかのようだ、と思ったら、辻村さんもこの作品にコメントしていました。
 
【朝井さんは、女子でもないのに、どうして女子の人生がこんなにも岐路の連続だということを知っているんだろう。―辻村深月氏】
 
化けたなあ、としみじみ思いました。
初の平成生まれの直木賞作家。
デビューから何かと話題の新鋭は、大学生から社会人になり、社会人の、そして作家の年齢よりも年上の女性を主人公とした作品を世に送り出しました。
 
直木賞受賞後、大抵の作家さんは無難な作品になっていくようなイメージがあります。
朝井さんは学生から社会人へと環境も変化し、尚更今後の作品がどのように変わって行くのかな?と楽しみにしていたのですが、いやほんと・・・女性特有のこのドロドロ感を何故こんなに詳細に書けるのかと。
 
ご自身でも社会人になると目を背け続ける事ができた現実から目を逸らすことはできないのだ、という現実を経験したからなのかな?
 
小学校時代、中学校時代、そして現在と時間軸が分かれていくのだけれど、それはもうエグイほどに探って欲しくない腹をさぐられるような感覚が続きます。
 
なのに気付いたら物語に引き込まれている。
現実を直視したくないのに、逸らせない。
とんでもない吸引力で読み手を離しませんでした。
 
人から見たらあんなにも憧れられる「アキ」も、大人になったら実はただの何処にでもいる一般人だった、のかもしれない。
現に「つかさ様」が一人の人間に嫉妬する何処にでもいるような女性であるように。
 
視点が変わることで、物語を深く掘り下げていく様がまた上手い。
一作発表する毎にどれだけの成長を見せつけてくれるのでしょう。
 
大学生や高校生、特に男性が主人公が多かった印象の朝井さん。
社会人が主人公は果たしてどうかしらと思っていましたが・・・そんな心配は全くの杞憂でした。
 
大物に化ける予感。
 
また、今までになくちょっとした記述トリックに見事に騙されました。朝井さん、今度はミステリ小説に挑戦なんてどうでしょうか?(笑)
(4.5点)