No-music.No-life

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ままならないから私とあなた

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先輩の結婚式で見かけた新婦友人の女性のことが気になっていた雄太。
しかしその後、偶然再会した彼女は、まったく別のプロフィールを名乗っていた。
不可解に思い、問い詰める雄太に彼女は、
結婚式には「レンタル友達」として出席していたことを明かす。 「レンタル世界」

成長するに従って、無駄なことを次々と切り捨ててく薫。
無駄なものにこそ、人のあたたかみが宿ると考える雪子。
幼いときから仲良しだった二人の価値観は、徐々に離れていき、
そして決定的に対立する瞬間が訪れる。 「ままならないから私とあなた」

正しいと思われていることは、本当に正しいのか。
読者の価値観を心地よく揺さぶる二篇。

朝井リョウさんの本です。
 
ここ最近立て続けに朝井さんの作品を読む機会が持てて嬉しい限り。
 
仕事しながらなのに結構コンスタントに作品を発表している朝井さんがまず凄いわ。
 
そして何が凄いって、朝井さん・・・もう何でも書けちゃうね!
 
多分今回露骨に風俗描写が出てきたのは初めてかと思うんですが、全然違和感なかったし(色々な作家さんの本を読んでいるが、こういう描写は凄く多い)、直木賞を受賞した「何者」以降の路線――えぐられるような爪痕を残す作品――がすっかり板についている感じ。
 
初期の頃のような淡い結末(女性作家っぽい感じ)、感動系、青春系、そしてエッセイの面白さに、先日読んだばかりのいやミス的な「世にも奇妙な君物語」などなど。
この方は一体どれだけの引き出しをお持ちなんでしょう。
 
平成生まれならではの、最近のデジタル文化、若者言葉、流行なども見事に取り入れながら、地に足のついた現実的な話も書けてしまう。
文章の読みやすさもさることながら、なんなんでしょうね。このぐいぐい引き込む力は。

という訳で、感想。
 
「レンタル世界」は、先日岩井俊二監督の「リップヴァンウィンクルの花嫁」を見たばかりというのもあるけれど、よりイメージが湧きやすい感じでした。
 
多分先輩の奥さんもそうなんだろうな・・・と察する事は出来たけど、主人公が絶対的に自信を持っている信念を伝えれば必ず分かってくれるはずだ、という自信が崩れていくラストは何とも言えない余韻がありましたね。
 
何とも言えない所はあるけれど、レンタルしたいという気持ちも分からなくはないような・・・という怖さがありました。
 
また表題作は、小学校の時の交友関係が大人になってもずっと続いているということにまず違和感があったのだけど、普通はそんなもんでしょうかね?
私は小学校の友達とは全く疎遠になっていますし、あの頃の友達って今考えてみても全く合わない子だった気がしてならないんですよね・・・。なので主人公の友達と彼氏が小学校の同級生という設定に少し違和感がありました。
 
また、薫との絶対的な意見の相違を感じているのに、ずるずる関係を続けてきてしまった故のラストの綻びだったんじゃないかなと思ったりもして・・・。
 
最後数ページの雪子が発する言葉が全く薫に伝わらないシーンは何ともいえない気持ち悪さがありました。
個人的には雪子の考えに共感するので雪子派ですが、薫の合理化主義がちょっと異常にも思えるほどで、伝わらないもどかしさを感じるより前に、嫌悪感が湧くほど。
 
雪子と渡邉君の関係は唯一ほっとできるものだったけど、いざ結婚となると上手くいかないもんなのかなあ。
色々考えさせられた話でした。
 
でもやっぱり私も、ライブはYouTubeとか配信で聴くより、生のライブで音を聴きたいと思います。
 
過去から近未来を辿っていくストーリーだったけど、こんな風に生音が主流でなくなる未来はもうすぐそこまでもしかしたら来ているのかもしれない。
けど、ライブでしか感じられない思いは絶対あると思います。
 
雪子と薫がこのまま決定的に決裂してしまうのか、それとも双方の考えがお互いに少しでも伝わって変わっていくのかは書かれていません。
後味が悪いような終わり方でもあるけれども、いかようにも想像できる結末もまた朝井さんのセンスだなあと思いました。
(4.5点)