介護に追い詰められていく人々、正義にしがみつく偽善者、社会の中でもがき苦しむ人々の絶望を抉り出す、日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。
葉真中顕さんの本です。
日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作品。
新聞広告で「話題」となっているのを見て気になっていた作品でした。
新人賞にありがちな、乗りきれない感じ、読みにくさ、荒削りさが全く感じられず、予想していたよりも面白いと思いました。
いや、これはぜひとも読んでほしい作品だと思います。
あまり期待していなかったのですが、たっぷりと読ませてくれる内容です。
介護業界の実態、国の補償制度の心元なさ。
介護する側、される側の苦悩。
そう遠くはない未来に、きっと自分の親も身体が不自由になり、介護が必要になる時がくる。
そんな親が、自分の事すら認識してくれず、元気だった頃に比べて変わり果てた姿になってしまったら――
第一章の親の介護に体力的・精神的に苦しめられる女性の話が一番リアルに響きました。
この話の中で、「彼」がしたことは正しい事なのか、それとも悪い事なのか。
「彼」のお陰で助かった人が確かにいて、「彼」のお陰で命を落とした人がいる。
でも、その命を落とした人が、「死んだ方がまし」という状態で生きている人間だったとしたら・・・・
検察官の正論は分かる。
分かるのだけれど・・・・・・それがただの綺麗事にしか聞こえないのは何故だろう。
深く考えさせられる話でした。
文句なし、5点満点です。
「彼」が誰なのか、というミステリとしても読む事ができ、まんまとミスリードに引っ掛かりましたが、どちらかというとミステリより話の内容に重きを置いて読んで欲しい作品でした。
(5点)