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完全なる首長竜の日

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植物状態になった患者と、コミュニケートするための医療器具「SCインターフェース」が開発された日本。少女漫画家の淳美は、自殺未遂を起こして数年間意識不明に陥っている弟の浩市と対話を続けている。「なぜ自殺を図ったのか」という淳美の問いかけに、浩市は答えることなく月日は過ぎていた。そんなある日、謎の女性からかかってきた電話によって、淳美の周囲で不可思議な出来事が起こりはじめる…。『このミステリーがすごい!』大賞第9回(2011年)大賞受賞作。


乾録郎さんの本です。
 
チーム・バチスタの栄光』(海堂尊著)以来の選考委員が大賞を即決した、という触れ込みの話題作。
ずっと気になっていたのですが、ようやく読む事ができました。
 
まず、率直な感想として。
文章がとても上手い。
凄く自然で、流れるような文章は読みやすくて良かったです。
この文学賞にありがちな、むやみに長たらしくて読みづらい、というのもなくて(長さも短めですし)。
誰にでも読みやすい、というのは凄く大事だと思いました。
このミス大賞の作品は興味を持って結構読んでいるつもりなんですけど、完全に一選考委員の好みとごり押しで受賞したと思われるものが多々あるので・・・
 
本作には関係ないのですが、巻末の選考委員の書評にちょっと不快感が。
私はこの辛辣な書評を読むのが結構好きなんですけど、満場一致で大賞受賞に決まった、という煽り文句が書かれていた割に、「他に推す程の作品がなかったから」「とりあえず優秀賞候補で」くらいの選考基準で選ばれた中で、反対意見がたまたまなかったから受賞したかのように語られていること。
 
個人的には、現実と虚構が入り混じる本作の展開や種明かしも少し何処かで聞いた事があるような展開のようには思いましたが、新人とは思えない安定した読みやすい文章と、完成度の高い作品であること、何より登場人物に体温が感じられるような魅力溢れるキャラクターを描いていることなど、とても高い評価をあげたいような力作なのです。
それをなんか、ぞんざいな言い方するなーとちょっと憤ってしまったりします。
 
3人の選考者は×なのに、1人がごり押ししたら渋々優秀賞に滑り込ませる事ができた、というような同時受賞作品の話にも触れられていたり・・・。
うーん、書評は載せない方が良いのかもしれないなあと、本作が素晴らしい出来だったためにそんな事を思いました。
 
虚構と現実の境目が分からず、ついつい物語に引き込まれてしまいました。
書評はともなく、本作は読む価値ありです。ぜひ。