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水晶のピラミッド

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空中高くに出現した密室で溺れ死んだ実業家……アメリカ南部の孤島に屹立(きつりつ)する人工のピラミッドに起こる不可能犯罪の謎!

死者は、上体を奇妙な具合にそらせ、右手を前方に、左手を後方に伸ばし、今まさに、クロールで水を掻いているところのように、双方を微妙に彎曲させていた。死因は、なんと溺死だった。それも、三十数メートル眼下の海水を内臓いっぱいに飲まされ、絶命していたのである――


島田荘司さんの御手洗潔シリーズ。

 
地元の図書館にあまり揃っていないので、別の図書館で探していたら文庫があったので借りてみました。
しかし、あまりにも厚みがあるので、一瞬借りるのをためらったんですけどね(笑)
 
なんと、解説を含めると741Pもあるのです。
 
これは流石に私でも3日間かかりました。
 
御手洗シリーズが初めての人や、島田さんが初めての人にはあまりお薦めしたくないかも。
ピラミッドの謎についてロマンを持っている人や興味が或る人には、多分楽しめますけれど。
 
あれ?これ御手洗のシリーズだよね?
と不思議に思うくらい、中盤の後半くらいになるまで御手洗が出て来ません。
 
最初は、古代エジプトの王子と小さな島に住む純真な女の子の話と、タイタニック号の話。
 
そこからようやく松崎レオナが出てくる現代になって、密室殺人事件が起こる。
事件の解決を早急にしなければいけなくなり、急遽レオナが日本に飛び、御手洗と石岡君が事件の現場へ。
 
古代にいたとされる不思議な生物と似た形をした奇怪な怪物らしき存在。
凡人には全く解く事のできない、密室殺人の謎。
鬱状態の御手洗の壊れたコンピュータのような不調。
そして、レオナの叶わない片思い。
 
過去から現在へ。
壮大なピラミッドの謎の、新たなる新説を打ち立てた島田氏。
 
御手洗シリーズには珍しく、あっさりと事件が解決したかと思わせておいて、最後の最後に大どんでん返しが待っていました。
 
個人的には、今回の作品で更に御手洗の事が好きになりました。
 
小説にありがちな名探偵は、とことん変わりもので、人間らしさというか、現実味がない感じの人間が多い気がします。
 
でも、大切にしていた犬の死を引きずり、酷い鬱状態に襲われた御手洗の無気力な状態や、
世界のハリウッド女優、レオナからの求愛にも決して信念を曲げようとせず、人を見下したような言動は相変わらずなのに、やはり石岡君やレオナを大事に思っているのが伝わってきます。
なんて人間らしい名探偵なんでしょうか!
 
だから多分、世の女性は御手洗に惚れてしまうのだろうなあと思いました。
 
世界的なスターとなり、富も名声もほとんど全てが手に入る立場にいながら、絶対に手に入る事はない御手洗の存在が、レオナにとっては何よりも大切で大きなものなんだというのが、本作で改めて分かりました。
そんなレオナが可愛いと思いながらも、でもやっぱり御手洗はレオナすらも選ばないのだろうなという事があまりにも伝わってきて切なかったです。
 
ただ、とにかく長い!
長すぎます!
御手洗の魅力を改めて実感したい、という方にはお薦めします。