No-music.No-life

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遠くの声に耳を澄ませて

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くすんでいた毎日が、少し色づいて回りはじめる。錆びついた缶の中に、おじいちゃんの宝物を見つけた。幼馴染の結婚式の日、泥だらけの道を走った。大好きな、ただひとりの人と、別れた。ただ、それだけのことなのに。看護婦、OL、大学生、母親。普通の人たちがひっそりと語りだす、ささやかだけど特別な物語。




宮下奈都さんの本です。

初めて読んだ作家さん、って思ったら、実はアンソロジーで2作は読んでいるみたいでした。
あまり記憶に残ってないのが不思議なくらい、とても良い読後感を残してくれる作品ばかりでした。

それぞれが独立した短編集なのかな、と思って途中まで読んでいて、「あれ?この名前さっき読んだのに出てこなかったっけ?」と思って疑問に思いながら読み進めていると、実は短編としても読めるんだけど、登場人物が少しずつリンクしていることに気付いたら、俄然面白くなりました。


最近は、殺人だの密室だのトリックだの・・・物騒な話ばっかり読んでいたせいもあるでしょうが、こんなに真っすぐな気持ちで読めたのは久しぶりの事です。


私は田舎に住んでいて、都会に出た事がないので・・・田舎に住む人が都会に向ける羨望というのが多分人より大きいと思うのです。

地方出身の作家さんで、その田舎の人間が都会に向けるその羨望の眼差しというのがとてもリアルに描かれている(と同時に、田舎故の卑屈な気持ちや、劣等感とか)のが、豊島ミホさんと辻村深月さんだと思うのです。

多分これは、田舎に住んでいる人が都会へ出るまでの葛藤や焦燥、憧れと現実を知らなければ描けないと思うのです。
やっぱり、都会で生まれて育った人には一生分からないだろうと思いますしね。

そして、最近の女性作家さんは会社勤めをしながら小説を書いている方が多いですよね。
OL経験がある人とそうでない人の作品にも、会社のシーン一つを書く上で全然違ってくるものですが、そういった意味で、この宮下さんは社会人として働く主人公達の描写や田舎と都会の対比がとても丁寧にリアルに描いています。

だからかな、本当に日常に転がっていそうな話ばかり。
変に非現実的じゃないから、とても安心して読めました。

ハッピーエンドとはちょっと違うのかもしれないけど、温かなラストにほっとしました。

ちょっと注目したい作家さんです!