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凍りのくじら

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藤子・F・不二雄をこよなく愛する、有名カメラマンの父・芦沢光が失踪してから五年。残された病気の母と二人、毀れそうな家族をたったひとりで支えてきた高校生・理帆子の前に、思い掛けず現れた一人の青年・別所あきら。彼の優しさが孤独だった理帆子の心を少しずつ癒していくが、昔の恋人の存在によって事態は思わぬ方向へ進んでしまう…。家族と大切な人との繋がりを鋭い感性で描く"少し不思議"な物語。

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辻村深月さんの本です。

某年始バイトの面接に行った帰りのことです。
その某デパートには、大きな本屋が入っていて時間潰しに私は本屋に入りました。

そこの新刊コーナーに、置いてあったのがこの人の新刊名前探しの放課後でした。

まず、タイトルからして惹かれる。
後ろのあらすじを読んでも、気になる感じ。

とりあえず買ってはいないのですが、図書館で予約しております。

という訳で、他の本も読んでみようと思って借りてみました。

いや~久しぶりに上下段になっている本を読んだ気がします。
そして分厚い!

名前と最初の印象から男性作家なのかと思ってましたが、いやいや・・私と2つくらいしか歳の変わらない女性作家でした。
(大抵私はこの人は男だ!女だ!っていう第一印象が外れないんだけど)

読んでみて、もう、これは・・私好みの作家であることを確信した次第であります。

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この「講談社ノベルス」という分類って、多分ミステリー系なんだというイメージがあって、凄く抵抗があったのです。
ミステリーというか、サスペンス系なイメージがあって。

しかし・・

驚くなかれ!




の話が沢山出てくるのです。

何よりこの主人公の女の子が、藤子・F・不二夫をこよなく愛しているのが良いです。
失踪した写真家の父が大好きだったドラえもんを、高校生になっても大好きな女の子。

人より頭が良く、内心では人を馬鹿にしながら、それでも誰かと会っていたくて人に合わせて笑う。

弱音を吐ける人もいない、本音を言える人もいない。
ただ、その場凌ぎの友達と過ごせればいいという理帆子。

母は病気で長い間入院していて、余命2年という宣告を受けている。
頭の良い高校に入ってそつなく過ごす日々。
少しはめを外して夜遊びする仲間。

神経質で無垢な元彼・若尾。
父に恩を受けたという理由で、経済的援助をしてくれている松永。

松永の隠し子、郁也。

そして、写真のモデルをして欲しいと申し出た先輩・別所あきら。


ドラえもんの道具をモチーフに、物語は展開される。

時に残酷で、優しくて、悲しくて、やりきれなくて・・
色々な思いが押し寄せてくる話でした。

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元彼、若尾の尋常じゃなさはかなりぞっとしました。

全身で無垢で世間知らずなだけという綺麗な顔立ちの青年の裏の顔・・
後半に連れて、どんどん異常行動を起こす様は読んでいて鳥肌が立ちました。


それと、クライマックスのシーン。

郁也を必死で探している理帆子、郁也を見つけて取り乱すその様。
そうして別所の正体をようやく知ることになったそのやりとりで、胸が熱くなって、久しぶりに小説で泣きそうになってしまいました。


不思議な青年、母との確執、父の思い出、家族・・・


ミステリー的要素と、10代の心の揺れ、家族とは何か、そういう色々な事を教えてくれた本だったと思います。

藤子先生がSFを「少し・不思議」というのをまねて、理帆子が人に対して「少し・○○」と名づけるのがまたセンスいいですよね。

私は少し・何なんだろう?

ドラえもんの道具で、こんなのがあったんだ!と思ったりと、そっちでも楽しめます。
私もドラちゃんが好きなので。

うん、凄く良かったです。
ぜひ読んで下さい。