No-music.No-life

ヤフーblogから移行しました。

さくら

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スーパースターのような存在だった兄は、ある事故に巻き込まれ、自殺した。誰もが振り向く超美形の妹は、兄の死後、内に籠もった。母も過食と飲酒に溺れた。僕も実家を離れ東京の大学に入った。あとは、見つけてきたときに尻尾に桜の花びらをつけていたことから「サクラ」となづけられた年老いた犬が一匹だけ。そんな一家の灯火が消えてしまいそうな、ある年の暮れのこと。僕は、何かに衝き動かされるように、年末年始を一緒に過ごしたいとせがむ恋人を置き去りにして、実家に帰った。「年末、家に帰ります。おとうさん」。僕の手には、スーパーのチラシの裏の余白に微弱な筆圧で書かれた家出した父からの手紙が握られていた-

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西加奈子さんの本です。

ああ・・不覚にも泣きそうになりました。
これは凄くよかった。

先日読んだ通天閣が、この本を出したのよりも後っていうのが信じられない。

デビュー作を発表した、第二作目だそうですよ。
それにしては、相当良い出来だと思います。

感動しました。

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序盤から、何か悪い現状がつきつけられたかのような、不穏な空気に満ち満ちた始まり。

「何か」が家族にあって、出て行ったきり戻ってこなかったらしい父が帰宅するという手紙が薫の元に届いて、その「何か」のせいで多分家から逃げるように出てきたらしい薫は実家に帰る事にした。

「何か」のせいで、昔の美しさの面影がほとんどないくらいに肥満体型になってしまったらしい母と、「何か」のせいで家に篭りきりになっている綺麗な妹・美貴。

そして、そこから過去の、兄妹と父と母の・・家族の思い出が語られていく。

薫と美貴には、かっこよくて何でも出来て人気者の兄・一がいた。

美しい母、優しい父、人気者の兄、可愛くてワガママな妹と、一匹のメス犬・さくら。

そんな家族の温かくて幸せな思い出は、兄の事故をきっかけに少しずつ狂い始めて行く-

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前半は、この家族の誰よりも幸せで円満な様子が伺いしれて、そして兄妹の仲も本当に良くてとても微笑ましく、そして時にほろりとしてしまったりするのだけれど、兄の事故がきっかけでそのいつまでも笑いあっている家族が少しずつ変わっていってしまう様はとても読んでいて痛々しかった。


それにしても、この父と母の関係と、子供を「生まれて来てくれてありがとう」と懸命に生きることの素晴らしさ、だとかそういうものを伝える親の姿と、それを必死に受け止める子供たちがとてもよかった。

兄のスーパーマンっぷりも素敵だし、それを越えるくらいに妹の奔放ぶりもよかった。
兄にも妹にも似ていない普通である薫だって、沢山の事を考えてそれなりに成長しているのも微笑ましく。

だから後半からどんどん不穏な空気が漂い始めてくると・・ハラハラしてしまって辛かった。

そんな中、犬のさくらがどれだけこの空気を和ませてくれていたか!
こんな犬がいたら、家族が皆笑っていられるんだろうな。

けれど、ラストはちゃんと前向きな感じで終わるのでご安心あれ。

それにしても・・妹の好きな人って・・
そうかあ。うん。
切ないな。

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145冊目。
正義のミカタを読み始めてます。
これもなかなか面白いですね!