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進々堂世界一周 追憶のカシュガル

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時は一九七四年、京都大学医学部に在籍していた御手洗潔は、毎日、午後三時に、進々堂に現れた。その御手洗を慕って、同じ時刻に来るサトルという予備校生がいた。放浪の長い旅から帰ったばかりの御手洗は、世界の片隅で目撃した光景を、静かに話し始める…。砂漠の都市と京都を結ぶ幻の桜、曼珠沙華に秘められた悲しき絆、閉ざされた扉の奇跡、そして、チンザノ・コークハイの甘く残酷な記憶…。芳醇な語りが、人生の光と影を照らし出す物語。


島田荘司さんの(多分)最新刊。
 
そして久しぶりの御手洗潔シリーズであります!
たまたま新聞広告で新刊発売を知り、即図書館で予約したらすぐに手元にやってきました。
 
今回は御手洗シリーズではあるのですが、ある京大を目指す予備校生の男の子が偶然御手洗に出会い、仲良くなっていく過程の中で、御手洗が旅してきた世界の出来事の回想を聞きながら物語が展開していきます。
 
短編・中短編含む4篇。
 
「戻り橋と悲願花」が一番面白かったかな。内容は面白いとかいうものではないんだけど(戦争の頃の日本の酷さが描かれているので)、一番物語に入り込めたものがこの作品でした。
 
二作目の話は何だか記憶を刺激するわ、と思っていたら、カッパノベルスの50周年記念作品に収録されていたやつでした。御手洗シリーズとは知らずに読んでいたわ・・・(笑)
 
今回はミステリというよりは、もっと優しい話ですね。
壮大な謎解きも、御手洗の変人奇人っぷりも全くない。
ただただ静かに物語が進行していく感じでしょうか。
 
御手洗潔という人間は、高慢で人を見下す立場にいる人間が大嫌いなので、そういう人間に対しては高圧的な態度を取りますよね。
反面、社会的弱者や謙虚な人間には驚く程優しいのです。
本作は御手洗のその優しさを前面に押し出した話ばかりなので、いつもの御手洗の活躍を期待している人には少々物足りないかも。
 
ただ、御手洗シリーズだと気負って読まなければ、十分読み物として満足できる内容ではあります。
島田さんの文章力、内容の濃さは健在。
 
個人的にはこんな優しい御手洗も好きなので、嬉しかったですけどね。
 
短編・中編が収録されているので、気負わずに読めるのも良いと思います。
 
3/11の東北関東大震災を経て発表された今作。
島田さんの懇意にしていた知人が津波にのみ込まれて亡くなったというあとがきには、なんとも胸が苦しくなりました。
 
そういった意味で、本作の御手洗はいつにもまして優しい面を見せているのかもしれません。