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波打ち際の蛍

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こんなにも痛い。こんなにも、愛しい。川本麻由はかつての恋人によるDVで心に傷を負い、生きることに臆病になっていた。ある日通院先で植村蛍に出会い、次第に惹かれてゆくが…どこまでも不器用で痛く、眼が眩むほどスイートな恋愛小説!!

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島本理生さんの本です。

私、島本さんの作品がどんどん好きになってきているのが分かりました。
生まれる森の頃から好きだった作家さんですけど、私と同い年の世代で、芥川賞を取って無くても一番惹きつけられる話を書くのは、島本さんだと思うんです。

綿矢りささん、金原ひとみさん、島本理生さん。

賞を取ったのは、前出の二人ですけど、島本さんはもう、最初から本物だったって私は思うんですよね。

どんどん上手くなっていくし、ほんの些細な描写にはっと驚く程、繊細で丁寧に描かれています。

アンハッピーエンドばかりの話を描くイメージがあるのですが、今作はハッピーエンドとアンハッピーエンドの中間あたり、そんな位置付けでしょうか。


付き合っていた恋人から暴力を受けていた事で、人から触れられる事、人と関わりあう事を極端に恐れるようになってしまった麻由。
相談室で偶然出会った蛍という男性に、少しずつ惹かれていくが、心とは反対に体が拒絶してしまう。

好き・愛しい・触れたい・・求める気持ちと、気持ちとは反対に反射的に拒絶してしまう体。
お互いが好きなのに、まるで恋人ではないようなとても際どい境界線の上にいる二人。

もどかしくて、多分好きな相手に触れたいと思うのは誰だってそう思うのが普通で、相手も好きだと言ってくれているのに、触れようとすると途端に拒絶される―

そんな風な相手を、それでも避けたり拒むことなく受け入れようとする蛍の器の大きさにやられました。

恋人や夫からの理不尽な暴力で苦しんでいる女性は、多分世の中に沢山いるのでしょう。
たまたま、私の周りにはいないというだけで。

そんな女性に、優しく寄り添って受け止めてくれる男性は、果たしてこの世の中にどれだけいるのだろう?
世の中の男性が、蛍みたいな人だったらいいのに・・と途方も無い想いを抱いてしまいました。


島本さんの描く、蛍という男性の優しさと、麻由の受けていた暴力の描写(それは断片的に、少しだけのシーンなのに)の対比が恐ろしい位に鮮やかで、だから逆に恐怖を感じました。

傷つけられ、狂って行く時間より、回復して癒されていく時間の方が、きっと数倍必要なんだろうと思う。

ああ、島本さん。凄すぎます。

そして改めて気づきましたが、多分島本さんと私の男性の好みはとてもよく似ていると思います。
それに、私が書きたい小説は島本さんが描く世界ととても似ているのです。

・・まあ実際、近づけない程文章力や才能に差がありすぎるのですけれども。


久々に、結末でじんとしてしまいました。
お薦めです。