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神田川デイズ

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根拠のない自信に、過剰な自意識と鬱陶しいまでのナイーブさを抱え、僕たちは、惑い、傷つき、夢を見つけようと上を見上げては途方に暮れる。大学生たちの息遣いと切実な思いをリアルに描く、傑作青春グラフィティ-

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豊島ミホさんの待望の新刊です!

今回は、大学生の日常を描いた連載短編集です。

大学生、と一口に言ってもしょっぱい大学生活を送っているどちらかというと冴えない男女の物語とでもいいましょうか。

学生生活がとても有意義で楽しいものだった!と言う人には、向かないかもしれませんね。
むしろ私みたいな学生生活ブルーでした、みたいな人間にはあまりのしょっぱさにほろ苦くなってしまったのですが・・読後感がまた良いです。

豊島さん、どんどん腕をあげてるなという印象。

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見ろ、空は白む
いちごに朝露、映るは空
雨にとびこめ
どこまで行けるか言わないで
リベンジ・リトル・ガール
花束になんかなりたくない


の6つの短編から成る今作。

東京での大学生活に、期待と希望を胸に上京し入学してきた物語の主人公たちは、現実とのギャップに挫折する。

目的もなく、ただ時間をダラダラと過ごし、諦め、もがくこともせず進もうともしなかった男女が最後は少しずつ前を向き始めようとする・・というような話なんですが。

その現実とのギャップと挫折感が痛い程伝わってくるんです。
もう「分かる分かる!!」と思わず頷いてしまうような。

ただ、自分は大学生を経験したことがないのでそこまで感情移入できなかったのがとても残念なのですが、豊島さんと同じく底辺だった高校時代を経験しているので、違和感はあまりなかったです。

きっと大学生だったら、この物語の主人公たちみたいな感じなんだろうなと思いますけどね(笑)

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特に気に入ったのは

いちごに朝露、映るは空

田舎から上京し、東京の大学に入学した道子。

真面目ないでたちをした自分は、明らかに周囲からういていた。
友達も出来ず、早くも大学の雰囲気に馴染めずにいた。

入学式。新入生へのサークル勧誘の波にもまれ、泣きそうになっているととある先輩が親切にしてくれた。

その美しい先輩は、不戦をうったえる会というサークルの演説をしていた。
道子は先輩の姿に惹きつけられた。

しかし、サークル勧誘の人ごみの中でもそこにだけぽっかりと穴があいたように人がいない。

それでも、親切にしてくれる先輩との交流が始まった。
最初は慣れなかったサークル仲間との関係も、少しずつ慣れて来て全てが順調に行くかと思えた。


とある日開かれたクラスコンパ。

たまたまその時に言った自己紹介で、雰囲気が一瞬にして冷え切ってしまった。
何かまずい事を言ったのか?
すると、不戦をうったえる会というサークルについて、よからぬ噂があることを知ってしまった道子。

そしてサークル内でも、1年生の必修授業が始まる前に教室演説を行う事が決定する。
更に道子も演説に加わる事になり・・・

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何の疑いもなく、憧れていた先輩が誘ってくれたサークルの悪い噂。
心に迷いが生まれた道子。

ラストの、どうしようもないくらいの気持ちが胸をしめつけました。


どこまで行けるか言わないで

今まで入っていた映画サークルを辞めて、新しい映画サークルで女性向けピンク映画を撮りたいと心に決めた奥村・池田・丸山。

今までのゆるい映画サークルという活動を捨て、自分達で新しい映画を作りたいという想いで立ち上げた映画サークル。

今までにない女性向けピンク映画という発想は、いけるように思えた。

監督・撮影を奥村が務め、丸山が女優を担当し、池田が脚本を担当することになった。

女同士3人で、映画の構想、主演男優の条件なんかについて熱く語り、3人で映画を作る!と意気込んでいた。

映画好きという共通項で、仲良くなった三人。

映画に出演する男優探しを始めることになった。

肉体美(特に手首の骨)・知性・メガネ・地方出身・よいおうちの子・色白・落ち着きのある声・・

なかなかそんな条件の男は見つからない。
諦めかけていた所に、その男アズマが通りかかった。

即スカウトをし、意外にも快く協力してくれるというアズマを見送りながら抱いた違和感。
池田は何度となくその違和感を抱くようになる。

そしてある日、奥平のアパートに呼ばれた二人。
そこで始まったのは丸山へのカメラテストだった-

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本気で映画を作製したいと想っていたのは、奥村で・・他の2人はそうではなかった、という事実が痛い。

-奥村は映画の人だった。私は映画の人じゃなかった。

その一節が、とてもリアルだった。

ほとんどの人が、所詮口だけの夢を語るだけなのだ。
実際にやれる覚悟がなければ、夢を切り開くことも出来ないのに。


花束になんかなりたくない


19歳で小説の新人賞を受賞した三島。
大手出版社からの新人賞だったため、本は出回ったのだが、売れ行きはお世辞にも良くはなかった。

2作目、3作目と出版はするもののどれも売上げは伸びる気配はない。

才能があると評されたあの頃を苦い気持ちで思いながら、ただひたすらに執筆活動を続ける三島。

幼馴染の星子への苛立ちと、真新しいスーツを着た3年生を見た時に感じる複雑な気持ちと。

小説に区切りをつけ、就職活動を始めた三島だが星子から

「・・たかちゃん、まだ諦めてないんだよ。選ばれた人間になることを」

と言われてしまう。
それに反発するかのように、三島は言う。

「いつまでも夢見たいのは自分だろ!自分がそうだから他人に投影するんだよ!」


三島が進むべき道は何処にあるのか?
もがきながらも、最後には答えを見つけて行く-

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ありがちだけど、小説で1度成功した人が挫折する話って結構じっくり読んでしまったりする。
それは自分自身の憧れだからなのかなあと想ったり。


この物語も、全ての話に出てくる登場人物が何処かしらで繋がっていて面白いです。

1話目で冴えない3人組だった男たちも、学内でのお笑いライブという道で成功しているようだし、くっつきそうでくっつかなかった男女がちゃんとカップルになっていたり。

物語のその後が、続いているので分かるのが嬉しかったですね。

それにしても、大学生を経験していたらもっともっと面白かったんだろうなあと思うと、とても悔しいです。

今年も、豊島さんの新作は何作か出そうな気がするので次作にも期待してしまいます!

ただ一つ今回の難点は、見た目が微妙ということでしょうか。
今までみたいな写真とか淡い色でシンプルな構成とかの方が個人的に好きかなあと思ったりしました。

まあ、中身は満足なんですけどね。
それにしてもぐだぐだな感想ですいません。