「怪しすぎるよ。こんなところに『弟』がいるなんて嘘じゃないの?」父と二人、少女は教会の地下、苔むした石畳を歩んでいく。研究者の父と、社交に忙しい母、二人のメイドとともに館で何不自由なく暮らしていた彼女の前に、野生児の「弟」が出現した…。
豊島ミホさんの本です。
これで、ようやく全ての本を読み終えました(と同時に本も全て揃いました)
この「ブルースノウ・ワルツ」は、今まで読んだ豊島さんの作品とはまた一味違ったものでした。
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主人公、楓は裕福な家庭に生まれたいわゆる「お嬢様」だ。
二人のメイドが身の回りの世話をし、教育係が勉強や稽古事を指導している。
父は研究者で、母は近所の人とお茶を飲んだりという社交に忙しい。
そんな父が、突然弟を迎えるという。
最初は弟が出来るという事で、単純に喜んでいた楓だったのだが・・・
その弟とは、言葉も喋れない、聞き取れない、山で育った野生児だったのだ。
安定した毎日。
婚約者が既に決まっていて、将来も安定しているし、何かに困ることもない。
苦手な母親に従順に、はむかうこともなく、不満を漏らすこともなかった日々。
最初は嫌悪感を抱いていた「弟」にいつしか興味を、最後には愛しむようになっていく。
そして、大人になること、それと共に失っていくものを感じながら大人になりたくないと抵抗する楓。
最後に、楓は心から成長していきます。
大人になることを拒みながら、だけど避けられない現実から逃げないこと。
そんな力強い楓の姿に、思わずきゅんとしてしまいます。
楓の母親が、言った言葉が突き刺さりました。
'''「子どものうちは、ただばくぜんと未来は明るい気がしてるけど、大人になればわかるのよ。自分がつまらない人間だってこと。」'''
子どもの頃、確かに未来は絶対明るいと思っていた。
今は、決して幸福とは言いがたいけど、いつか幸せになれると思っていた。
だけど、今・・
未来に、不安を感じるのは何故だ?
将来を明るい方に描けないのは何故だ?
そして思う。
子どもの頃に想像していた大人になれたのだろうか?
答えは、ノーだ。
『グラジオラス』
死んでしまった、大好きな「きりお」を忘れないように、きりおが生きている世界を想像することで、想像の世界できりおを生かすことが日課の「まに子」
だけどいつか人間は忘れてしまう。
死んだ人間のことを。
だんだん現実の世界を感じ始めたまに子。
だけど・・
私も会社の同期の子が亡くなった経験がありますが・・
毎日顔を合わせる人にとっては、「死」は現実のものとして受け入れられるだろう。
だけど、ほとんど顔を合わせることがない人にとっては?
生きているのか、死んでいるのかさえ実感できないだろう。
そういったことが、この物語に描かれていて、感情移入しながら読んでしまった。
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どちらの話も、今の落ち気味の自分には痛い程突き刺さって、切なくなった。
だけど、こんな切なさは悪くない。