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リテイク・シックスティーン

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高校に入学したばかりの沙織は、クラスメイトの孝子に「未来から来た」と告白される。未来の世界で27歳・無職の孝子だが、イケてなかった高校生活をやり直せば未来も変えられるはずだ、と。学祭、球技大会、海でのダブルデート…青春を積極的に楽しもうとする孝子に引きずられ、地味で堅実な沙織の日々も少しずつ変わっていく。




豊島ミホさんの本です。

今まで豊島さんの本は、アンソロジー小説を含めて読破してきたつもりですが・・・おそらくこんなにも分厚い長編は初めてなのではないかと。

そして内容も今までの作品とは大分違って、「今」の豊島さんだから書けたというような作品に仕上がっていると思います。

私の中での豊島さんの最高傑作は、底辺女子高生なんですが(笑)、小説では檸檬のころを越える作品はやっぱりなくて、だけど2番目に何を選びますか?と言われたら、迷わず今作を選んでいるかもしれない、と思えるくらいにはなかなか良い作品でした。


高校1年生の沙織は、容姿端麗で秀才・運動神経も良いという女の子。
仲良くなったクラスメイトの孝子から、自分は未来から来たのだと告白をされる。

嘘だと思っていながら、未来を知っているからと思えば不自然ではないと思われる行動や言動が重なり、いつしかそれを少しずつだけれど認めていく沙織。

2009年の27歳の自分がどうしようもなく、高校生の頃に戻って一からやり直したいと強く願ったら、戻ってくる事が出来た――という孝子は、自分自身から逃げたくてたまらなかったのだ。

やり直す事が可能になった「今」を、孝子はめいっぱい後悔しないような生き方で謳歌しようと決めた。

孝子の記憶の中で失敗したと思った事、選択を誤ったと思った事、すべてをやり直すことが出来たなら・・・きっと新しい未来が切り開けるだろうと思った孝子だったのだが・・・


16歳という青春の日々。
恋や、女同士の面倒くさい友情、進路選択、家庭の事情、一年を通して行われる様々な学校行事。

知ってしまった未来の自分の姿、枠にとらわれていた未来像、そうなると決められていること――

16歳の男女の姿を通して、見えてくるものは・・・




豊島さんは、基本的に高校生が主役という話が多いです。
今回も勿論そうなのだけど、一つ違うというならば、孝子が何処か豊島さん自身に被る事、でしょうか。
いや、読者としては(特に豊島さんとも歳が近い私みたいな底辺女子高生だった人から見れば)孝子に一番共感を抱くでしょう。

27歳というのは、豊島さん自身の年齢(でしたよね?)でもあり、そして高校時代を悔いていることから、今の豊島さんにしか書けなかった作品なのではないかと思います。

そして珍しい事に、可愛くて頭も良くて運動も出来るという完璧な女の子を主役に据えているという事も驚きました。
ただ、見た目程完璧ではなくて、家庭の事情が複雑で会ったりする訳ですが、今までだったら地味系女子が主人公だったり、ちょっと変わった子が主役であったりすることが多かったですからね。

完璧な女の子と、劣等感を持っている女の子の友達同士に、その彼氏とその友達という男女4人がメインになって進んでいく訳ですが、進路選択によって仲良くなった友達と離れてしまうというただそれだけの理由で、こんなにもぎくしゃくしたりするんですよね。

私は進学校でもなんでもなかったし、就職組だったのもあるので、そういう文理選択っていうのは一切なかったのですが・・・
仲良くなった友達と喧嘩したり、離れてしまうって思った瞬間のあの絶望感。

一人で生きていけない訳でもないのに、何であんな風にいなくなってしまうって思った瞬間、目の前が真っ暗になるような気持ちになるんでしょう。

大人になってバカみたいって思うような事が、なんであの頃はあんなに真剣に考えてたんだろうって思うことが結構あるんですよね。
不思議だ。


まあそういった意味で、何だか読んでいて痛くてくすぐったいような、そんな微妙な気持ち悪さ(恥ずかしいような感じ)になりながらも、なかなかの読後感。

しいて文句を言うとするならば、豊島さんが書く会話の言葉があまり好きではなかったり(本当に今風な会話や言葉が使われているからですね)、年齢的に今の高校生を書くのはちょっと厳しくなってきたのではないか・・・と何故か関係ない私が気恥かしく思えてきたり、前半がややのろのろペースだった割に後半に一気につめこんでしまっているような気もしたりするのですが、それでも豊島さんは長編に挑戦して欲しいと密かに思っていた私なので、その長編が期待に沿った出来になっていたのにはなかなか満足しました。

孝子が本当に未来から来たのか?村山君と沙織の関係は進展したのか?大海君がなんで急に孝子と付き合う事になったのかっていう(笑)疑問は多々あって、それを詳しく知りたいと思うのは、また無粋なのでしょう。

休業宣言をなさってから、それでも今まで書きためてきた本が単行本化して今年も結構本が出てましたが、しばらく書きませんとインタビューで語っていたのをみて、とにかく残念でなりません。

ただ、ブログは時々更新されているのでファンとしてはちょくちょく見てる訳ですが、書き下ろしの長編で、今までとは違った主人公とか設定とかに挑戦してみたら、この作家はもっと別の可能性や広がりが出て来そうな気がするのですよね。
やっぱり文章の読みやすさはなかなかのものだし。

復帰を気長に待ってはいますが、しばらくは本が出ることはないのかなあ。