2021年1月~6月 読書リスト(上半期)
読書録 (上半期:28冊)
逐一アップできるか分からないので、随時更新していきます。
※半年で結構たまったので、上半期と下半期に分けることにしました。
2021年
■火竜の山 南アルプス山岳救助隊K-9/樋口明雄
→前作は人為的に「テロ」という行為で山の上が文字通り戦場になったが、今回は噴火という自然の脅威との戦いである。
活火山の山登りには何度か行ったことがあるが、「まさか噴火に遭う訳はない」とやっぱり都合よく考えてしまうのが常である。
けれど、御岳山の噴火のようなことが、実際に起こりえるのだ。そういうことに改めて気づかされた。
誘拐事件と殺し屋の話も絡むのだが、個人的にはK-9の話と、ネットで出会っただけの即席パーティーでの登山の危険性だけでも展開としては十分な気がした。
ともあれ、このシリーズは安定の面白さ。
なかなか山に行けない今だからこそ、本だけでも山に触れていられるような気がして良い。
(4点)
■犬がいた季節/伊吹有喜
→伊吹さんの物語は、いつだって温かく、登場人物たちが皆可愛くてとても好ましい。
三重県四日市にあるとある高校を舞台に、昭和から平成、令和へと紡がれる歴史と生徒達の時間の中には、コーシローという犬が傍にいた。
ああ、こんな甘酸っぱくて切なくて、瑞々しいほどの青春時代を過ごせていたら、高校時代に戻りたいと思えるんだろうなあ・・
キラキラ眩しいほどの世界観の中で、優しい気持ちになれる話だった。
特に、時代と共に人とのつながりが簡単になるにつれて、物理的に遠く離れても永遠の別れにはならない今とは違い、携帯もなく住所や連絡先が分からなくなったら本当に会える機会がなくなってしまう昔だからこそ、想いを告げられず淡い想いを残して卒業していく生徒達の恋にキュンとした。
犬のコーシロー目線で語られる部分も可愛い。優花と光司郎の淡い関係が長い時を経てラストに繋がっていくのは嬉しかった。
(4.5点)
■南アルプス山岳救助隊K-9 レスキュードッグ・ストーリーズ/樋口明雄
→シリーズを追うごとに、カムイの描写の中で老いという現実がちらつき始めていたから、いつかその日がくるだろうことは分かっていたけど、ついに別れの時が。。
新藤の相棒として長らくバディを組んできたカムイ。
最後の最後まで、救助犬としての使命を全うして力尽きていく姿には目頭が熱くなりました。そして、新たな相棒との出会いも・・
様々な視点から描かれる短編集になっていて、特に救助犬の活躍を読みたい人や、大きい事件はなくても日常の山岳救助の日々が読みたいと思っていた人には特におすすめしたい。
夏実と深町のこの淡い関係は・・どうなるのでしょう。深町の気持ちは見えないものの、夏実は完全に深町か。松戸君の恋の行方は一体・・・
(4点)
■白い標的 南アルプス山岳救助隊K-9/樋口明雄
宝石強盗殺人事件の3人の犯人が仲間割れし、1人が宝石を持って北岳へ。そいつを追って残りの2人も北岳へ向かう。
この事件に巻き込まれ、目の前で凄惨な光景を何度も目撃することになってしまう夏実と、協力を依頼された救助隊隊員たち。
冬山の厳しさも去ることながら、北岳にはやはり山の神様がいるのではないか、と思われるシーンが何度もある。何度もピンチを迎えながらも、その山に救われているように思える夏実。メイというか、救助犬の活躍が控えめなのが少し物足りないが、相変わらず引き込まれる。
遭難して救助されたものの、諸事情によりボロボロな体でかなり活躍を見せてくれる大学生2人のコンビが良い味を出しているので注目。
シリーズはまだまだ続くようなのに、通っている図書館に以降のシリーズがないことに気づいて愕然としている。続きが気になるわー。
静奈が自衛隊員の彼と破局してしまったようなのが残念。こんなに活躍しているのに女だからというだけで手柄を人に譲ることになるなんて、警察って何とも厄介な組織だなあ。
(4点)
■祝祭と予感/恩田陸
「蜜蜂と遠雷」のスピンオフ作品集。
サウンドトラック集などに収録された短編のようで、非常に短く、かつ字が大きいです(笑)ページをめくって、「字でか!」って思わず叫びそうになるくらいの。
したがって、本篇の上下段であの分厚さだった読み応えを覚えていると、なんと薄いの字が大きいのとすぐに読み終わってしまう予感に寂しさを覚えるかもしれません。
なので、時間をかけてゆっくり読みました。
コンクールその後の亜弥、塵、マサルの話や、ナサニエルと三枝子の出会い、ホフマン先生と塵の出会いなどこういう経緯があって彼らはここにいるんだなあというものが知れて嬉しいです。でも、もっと沢山読みたいと思うのが本音ですが。
音楽、ことにクラシックには全く疎いけど、頭の中にピアノを奏でる情景が浮かんでくるのは凄いなあ。映画も観たいです。
(4点)
■サイレント・ブルー/樋口明雄
K-9シリーズが図書館でこれ以上置いていないことを知り、別の作品も読んでみようと手に取ってみた本。
東京から八ヶ岳に移り住み、飲食店を営む一家。
蛇口をひねれば天然水が売りのはずが、突然濁った不味い水が出た日から、状況は一変する。
水はタダではない、というのをふとすると忘れそうになるけど、登山をしている時(特に山小屋を利用するときとか)に、水は有限なんだ、と水の大切さに改めて気づかされるのだけど、突然水が出なくなり水のない生活を送ることになってしまう住人達と、飲料水メーカーとの因果関係、市長選が絡み、壮大な話に。
これはあくまでフィクションらしいけど、飲料水メーカーが買い取った森林が管理もされず、野放しになっている現状は、数々の土砂災害が物語っているのかもしれない・・・。
あのメーカーがモデル?と思うとちょっとぞっとしてしまう。
森の中で湧き出る水のシーンは、幻想的で行ってみたいなと思った。
(4点)
■ミッドナイト・ラン!/樋口明雄
これがあの樋口さん?!と思う結構ぶっ飛んだ作品。
ネットで集まった初対面の自殺志願者たちが、練炭自殺決行のその時、助けを求めてきた少女を成り行きで助けることになったことから、突然事件の犯人にされ、警察ややくざから追われる身となる。
偶然その逃走劇に居合わせたFM局のパーソナリティーの女性が、市民を巻き込んでやがて彼らを支援していく―
悪い警察が簡単に何人も殺すわ、やくざのドンパチ騒ぎや、カーチェイス・・等々かなりやりたい放題な設定なのだけど、この自殺志願者たちがいつしか生きる道を選んでいて、生き生きとしていくのはなんだか力が湧いた。
(4点)
■日本史は逆から学べ 近現代史集中講義/河合敦
この本の冒頭にある通り、学生時代の社会の授業って、先生や時間によって教わる内容が大きく左右されるものだと思う。
中学の時は、「江戸時代は長いから」と天保の改革や享保の改革らへんからすっ飛ばされて、共通テストに出てきた時にその単元が分からないという事態になったり、高校の時は専門教科に力を入れていたから、通常の教科についてはほとんど道楽でやっているのでは?というレベルで教科書のほぼ前半で3学期が終わっているとか、そういうレベルだった。
(高校の日本史の先生が新選組あたりの所がめちゃくちゃ好きだったらしく、かなーりマニアックなテストが出されたのは覚えているが、今だったらなんかわかる気がする・(笑)
だから、興味のあるないよりも、「時間が足りな過ぎて学びきれない」という感じで日本史の授業は終わってしまった。
学生ではなくなり、大河ドラマにはまってから、すっかり幕末の面白さの虜になると、図書館で歴史関係の文献や本を読みまくり、日本史を知る面白さを知った。
何が悪いのか?そうだ、全く想像がつかない遠い遠い過去・・縄文時代や弥生時代あたりから始めるから悪いのではないか?近代史だったらちゃんと今の時代に地続きだったと思いやすいし、戦争という知らなければいけない歴史や先人たちの教えがよりダイレクトに響いてくるのではないか?
そうだ、こんな歴史を学べる本を待っていた!と、前置きが長くなったが、日本史を近代史から幕末まで逆から辿って学んでいこう、という趣旨の本である。
現代史は、安部総理の「アベノミクス」がどういう経済効果をもたらしたのか、小泉政権が人気を博し、どういう政策をして何を残したのか、というところから、戦後の復興、戦争の末路、戦争突入、世界大戦勃発、日露戦争、日清戦争、国内の動向、明治維新、幕末の倒幕に向けた動き、外国船の脅威・・・
平成→昭和→大正→明治→江戸時代の出来事を疑問と答えと共にコンパクトに解説されている。
政治の話はどの時代でもやっぱり難しく感じ、敬遠してしまうのだが、戦争や明治維新ややはり幕末は興味があるので読んでいてとても興味深い。
このシリーズは、近現代から原始・古代まで、江戸・戦国編もあるようなのだが、そのあたりはあまり興味がない単元だから、気が向いたら読むかもしれないし、読まないかもしれない。ともあれ、この本は面白く読んだ。
(4点)
■許されざるもの/樋口明雄
これは非常に苦戦・・
分厚さと上下2段構成は面白ければ気にならないくらい一気に読めるんだけど(恩田さんの「蜜蜂と遠雷」みたいな感じで)、話に入りこめないととにかくページをめくる手が重くて前に進まない・・・
第3部に至るまでずっとその調子で、返却期間までに返却できず、延長するもそれすら間に合わなくて延滞するという状況で、黙々と読み進めていくと、第3部でK-9シリーズの納富さんが登場したり、話としてもクライマックスになるにつれてようやく入りこめて無事に読了。
鹿や猿などによる獣害が増えたのは、食物連鎖の頂点にいたオオカミが絶滅したことが要因であり、オオカミを再び森に戻し、正常な状態に戻そう、というところからオオカミを中国から連れてきて、八ヶ岳の山に放そうというプロジェクトが試みられる。
が、人間側のエゴや予期せぬ事故なども発生し、悲しすぎる結末が待っている。
人間への攻撃は未知数で、やみくもに悪者扱いされるオオカミ。人間によって番を失っても人間に抵抗しないオオカミの凛とした姿が切ない。
実際にはなかなかこのようなプロジェクトは実現しないのだろうが、獣害をどのような手段で減らしていけるのか、数が減っているライチョウなどの問題もあり、悩ましいところですね・・・。
K-9シリーズでも一度コラボしていたり、関隊員の妹さんが所属していたりする話でもあるのですよね。これはシリーズ?で前作があるようでちょっと気になるのだけども、本作が入りこめるまでに時間を要したのでそちらはどうだろう。
(3.5点)
■獣たちのコロシアム 池袋ウエストゲートパーク16/石田衣良
アニメ、非常に面白く見ていました。
私の好きなマコトとサルがなかなかイケメンに描かれていたことと、池袋という街の雰囲気、トラブルシューターとして駆け回るマコトの軽やかな疾走感が非常によく描かれていて、原作ファンとしても大満足でした。
終わってしまって残念ですが、原作はまだ続いているので嬉しいですね。
冒頭のサルのタピオカのお店でバイトをすることになったおっさんに感動し、さらっと読める2編の後の表題作。
胸糞悪い児童虐待の話です。
虐待のフェイク動画で鬼畜たちに鉄槌を下すべく動くマコト達。フェイクといえども読んでいるだけで苦しい。嫌なテーマです。
そしてこの表題作からコロナ禍の描写がとうとう登場。これからのシリーズはコロナは避けて通れないテーマになるのかなあ。
(4点)
そういえば東京バンドワゴンシリーズの最新刊を読んでいない気がする、とかなり経った今、図書館で借りたのですぐに読むことができました。
池袋ウエストゲートパークシリーズは、マコト達は全く歳を取らないサザエさん的な感じですが、この東京バンドワゴンシリーズはちゃんと歳を取っていく。
だからこそ、研人がついに高校卒業!そしてメリイちゃんと結婚!という展開になんだか時の流れというものとあああの小さかった研人が・・とまるで親になったかのような目線で感慨深く読みました。
藤島さんとみどりちゃんも良い形で収まったし。
これでまた相関図が大変なことになりますが、どんな問題が起こっても堀田家の皆がいれば万事解決。これが理想の家族の形、ですかね。
安定の面白さ。4月頃新刊が出るかな?楽しみです。
(4点)
■復讐の協奏曲(コンチェルト)/中山七里
中山さん作品の中でも好きなシリーズの1つである、御子柴礼司シリーズ。
こちらも安定の面白さ。
御子柴の法律事務所でただ1人の事務員である洋子が、殺人容疑で逮捕された。
御子柴の懲戒請求が大量に送り付けられるという状況もあり、事務処理に追われている中での事務員の欠員。
表向きは大事な事務員が欠けたら困る、という名目だが、洋子の弁護を引き受けた御子柴。洋子の過去を追ううちに、洋子が御子柴の過去を元々知っているどころか、御子柴が殺めた女児の友人であったことが判明。そして洋子は戸籍のない子供だった―
立て続けに驚愕の事実が明らかになっていく中で、読者は冒頭から洋子が全てを知ったうえで御子柴の弁護士事務所に勤めている、という事実を知らされ一体どうなっていくのだとハラハラ。
真犯人および更に裏で真犯人を操っていた人物も例のごとく明るみに出ていくのですが、操っていた人物の心情も理解できなくはなく・・・複雑な心境です。
御子柴が洋子とのやりとりで時折見せる人間らしい一面、倫子が絡むとたじたじになる様子。今回洋子がラストで御子柴の昔見せた一面について語る部分もあるのだけど、人は変われるのでは・・と仄かに思わせてくれるこの感じが嫌いではない。
まあフィクションの範囲だからそう思えるっていうのはあるけれども・・・
今回も面白く読んだ御子柴シリーズでした。
(4点)
■日帰り登山のススメ あした、山へ行こう!/鈴木みき
文庫版だったので、もしかして単行本で読んでいたかも?と思いながら図書館で借りてみる。読んでみたら未読のものだったのでもっと楽しめた。
私の求める登山と鈴木さんの山登りにはとても近いものを感じる。思い立ったらふらりと山に行って、おにぎりを食べて、温泉に入ってから日帰りで帰ってくる、という本当に気軽に山登りに行くというスタイルがいい。
日帰り登山の紹介ということもあり、関東近郊のよく私が行く山や行ったことのある山も沢山紹介されていたけど、気軽に登山に行きにくい今だからこそ、本の中でもあああの山最近いっていないとか、また行きたいなあと山に思いを馳せるだけで、なんだかとても良い気分転換になった。
本というよりほとんど漫画なので読書、という感じではないけど、山登りをしてみたいけど敷居が高いなあとか、ゆるい登山が好きな人とか、そういう人にこそぜひ読んでほしい。
巻末にあばれる君と鈴木さんの対談が収録されているのだけど、あばれる君は元登山部だったのね!やりすぎ都市伝説で結構険しい山登ってるもんな、と納得。正直あまり好きではない人だったけど、急に好感度が上がった(笑)
(4点)
■日日是好日 -「お茶が教えてくれた15のしあわせ」/森下典子
黒木華が主演の映画を観て、思いのほか良かったことと、ブルーオーシャンで住吉美紀さんが紹介していたのをラジオで聞いて、読んでみようと思った本。
エッセイのような小説のような。主人公は森下さん?なのよね?でも一つの小説を読んでいるかのような不思議な感覚だった。
10代でお茶のお稽古を始め、40代に至るまで続けてきたお茶。それなのに、いつになっても新鮮で、初めて習うかのような感覚が消えない。メモはダメ、とにかく身体に動作を身に着ける、というやり方で、季節によって全く異なるお作法になる・・・
季節ごとに感じられる四季。掛け軸の言葉、和菓子で季節感が感じられ、水の音や風の音まで聞こえてきそうだった。
メモしてメモを観ながら実践して覚えていくタイプの私は、ずっと茶道に興味があるのだけど、ますます敷居が高くなってしまった。けど、やっぱり一度挑戦してみたい気もする。お茶のお道具や季節の和菓子の写真もカラーで載っていて興味深い。
なんと奥深いお茶の世界よ。
(4点)
■中山七転八倒/中山七里
どんなに好きな作家でも、エッセイになると途端に面白くない(楽しめない)ことが多々ある(豊島ミホさん、朝井リョウさんを除く)。
そのせいか、この本が出ていることはずっと知っていたものの、手を出せずにいたが、読む本がなかったので図書館でついに借りてみた。
日記形式で、淡々と、毒を織り交ぜながら出版界のあれこれや新人作家についてのあれこれなどが語られたり、映画への情熱を語ったり、締め切りに追われる生活が語られたりと意外なほどすらすら読める。
中山さんの出版ペースの早さは、追いかける方としては追いつけないくらいなのだけど、中山さんがどのようにして様々なジャンルの作品を書き進めつつ、且つ同時進行で作品を書いているのか、寝る間もないほど執筆に費やし、締め切りに追われ、担当さんから矢のような催促を受けながらも、ドリンク剤とアルコール漬けの執筆生活を送る様が書かれていて、体を壊さないのかと心配になるほど。
そして、多分既刊本はほとんど読んできた身として、図書館ユーザーですみませんとまず謝りたい。
図書館は新刊も無料で貸し出してくれて好きな作家の本を気軽に読めるという利点がユーザーにはあるけど、出版する側や作家側の視点だとそういう問題があるのか・・・と目から鱗。〇ックオフとかに売っているものを買ったとしても、それは〇ックオフの利益にしかならないことも。
特に読んで何か得られたという訳ではないのだけど、毒の中に愛がある感じがして嫌いじゃない。多分私も相当他人に対して批判的な気持ちでいる性格の悪い奴だから共感するのかも。。
ただ、読めば読むほど中山さんが何者なのか、良い意味で分からなくなる本。
朝井リョウさん曰く、中山さんは「相棒の右京さん」らしい。
(4点)
■ナミヤ雑貨店の奇跡/東野圭吾
久しぶりの東野さん。映画化し、何度か予告編を見る機会があったので、原作を読んでみたいなあと思っていたのだが、ようやく読むことができた。
何か犯罪を犯して逃走中の若者3人。逃げ込んだ空き家は、「ナミヤ雑貨店」という店舗だったらしい。物音がし様子を見に行くと悩み相談の手紙が。
悩みに対する回答を書き、手紙を牛乳箱に入れるとまた新たな手紙が届いた―
どうやら「過去」からの手紙らしい。
一体この場所は何なのか。混乱しながらも、3人は悩みに対して考え、返事を書く。
このパターンで続いていかないのが東野さんの上手いところで、悩み相談をする側の視点と話の共通項としてとある児童養護施設の存在がちらほら。
ナミヤ雑貨店という場所に集まる悩みだから、地階存在の人物たちが絡むのは当然。だけど結末でリンクが明らかになると、おお・・・!という感動が襲ってくる。
映画もぜひ見てみたい。
(4点)
■クローズド・ノート/雫井修介
映画化の際、「別に・・」で不本意にも話題になった本作。
原作を一度読んでみたいと思いながら、雫井さん自体未読だったため、ちょっと敷居が高かった。ただ、先日読んだ「望み」が読みやすかったのでついに読むことに。
「望み」が犯罪に関わったかもしれない息子を案じる家族の悲哀を描いている作品だったので、まず雫井さんってこういう話も書かれるんだ!という驚き。
そして巻末を読み、雫井さんの亡くなった実姉のエピソードが含まれており、そこからこの物語が生まれた、ということを知って二度びっくり。
以前住んでいた人の忘れ物(=日記)を見つけた主人公が、その日記を読み、その元住人に親しみを覚えていく過程やイラストレーターの石飛さんとの出会いと淡い恋が生き生きと描かれている。
冒頭からこの元住人は亡くなっていて、この日記に出てくる人はこの人なのだろうな、と思って読んでいたけど、死因が予想と違っていて運命の悪戯を呪いたくなった。
こちらも映画を観てみたい。
石飛さんみたいな人を好きになると大変だろうなあと苦労を察する。
(4点)
■境界線/中山七里
震災を扱った小説はいくつか読んできたけれど、描写の生々しさは群を抜いているかも。。
何の罪もない人々、家、街そのものが津波という脅威により失われてしまう。
まさかあの人が犯人だなんて・・・ということは現実でも沢山あるが、犯人が犯行に至るきっかけになったものが震災というのが物悲しい。
津波で行方不明になった妻の名前を語る見知らぬ死体が発見され、笘篠は事件を追い始める。容疑者の過去が合間に入るため、憎むこともできないやりきれなさが募る。
(4点)
■犯人に告ぐ(上)/雫井修介
2冊読んでこれならいける!と思い、有名な本作を借りてみた。
が、、なぜか全然入りこめずに大苦戦。もう諦めようかなと思いながらなんとか読了するが。。
個人的に合わなかっただけか?不安に思いつつも下巻へ。
(3点)
■犯人に告ぐ(下)/雫井修介
上巻で全然入りこめなかったのだが、下巻からようやく話が入ってきてすいすい読めるように。
マスコミ関係者に安易に操作情報を渡す奴にイライラしながら、メディアをうまく利用して犯人との接点を作ろうと奮闘する巻島の執念。
なかなかしっぽを出さなかった犯人が最後には案外あっさりと見つかるのには拍子抜けしたが、上巻冒頭で怨恨を残した「ワシ」の影がちらつき、どうなるのかとハラハラしながらも決着がついてほっとした。
続編も出ているようだけど、ちょっと合わないかもしれないので別の作品を読んでみることにしたい。
(3.5点)
■火の粉/雫井修介
犯人に告ぐがあまり入りこめなかったのでどうかなと思いながら、雫井さんの作品のおすすめで調べてあった中でこの本を借りてみた。
これは好み!面白かった。
ある一家殺人事件の容疑者に対し、元裁判官の勲が下した判決は「無罪」。
裁判官を退任し、大学講師になった勲は講演中に見知った顔を見つける。なんと無罪判決を下した男、武内だった。
武内と交わした会話の中で、現在の住まいを話した勲だったが、ある日空き家だった隣家に武内が引っ越してきたことから、家族を巻き込み不審な出来事が起こり始める。
勲の視点から、嫁の雪見、姑の尋恵の視点が交互に続き、より臨場感を持って不穏な雰囲気が伝わってくる。
いち早く隣人に不信感を抱いた雪見は家族から孤立することになっていくが、一歩引いていたはずの勲が武内の過去を知ることになり、少しずつ家族それぞれが脅威を抱くことになっていく。
もしかして武内は犯人ではなかったのか?という方のラストを考えていただけに、ラストには驚いた。
武内の豹変が恐怖過ぎて、ハラハラドキドキしながら読了。面白かった。
雫井さんの作品はもう少し読んでみたい。
(4.5点)
■犯罪小説家/雫井修介
こんなに不穏な雰囲気を出しておいて、結局は犯人じゃないんだろうと思わせての意外なラスト。
驚くほど小野川の直感があたりすぎて怖いほどで、小野川は一体何者なんだと怪しい雰囲気を醸し出しながらの真相に驚き、そうきたか・・・と。
真相を知りすぎたライターの今泉の末路が悲しすぎる・・・。
自殺サイト「落花の会」の下りが結構好みで、掲示板のやりとりとか、リリィシュシュのすべてを彷彿とさせて結構好きだ。
(3.5点)
■殺気!/雫井修介
タイトルに反して明るめのテイスト。
女子大生のましろには、「殺気」を感じる特殊体質があるようで。
女子大生なので友達との交流やバイトやファッションショーのモデルやら青春が繰り広げられたりするのだけど、過去に誘拐・監禁されたことがあるというきな臭い事件もあり、そっちの話が早く知りたいと思って蛇足に感じてしまった。
すごいつまらないという訳ではなかったものの、前半はなかなか進まない感じでちょっと苦戦。雫井さんは何作か読んできたけど、好きなのとそうでないのが作品によって分かれるかも。。
(3.5点)
■その扉をたたく音/瀬尾まいこ
久々に瀬尾さんの新作を読む。
瀬尾さんの作品って、基本的に善人が多いのと性善説の上に成り立っている感じの話なので、読んでいてとてもほっとできる(きな臭い作品ばかり読んでいるせいもあるが)。
29歳・無職なのに親からの十分な仕送りで自堕落な生活を送る主人公。
ギターを演奏するために訪れた老人ホームで、魂に響くようなサックス奏者と出会う。
その老人ホームの職員である彼に一緒に音楽をやらないかと熱く語るも、働いて生活をしている真っ当な彼にはなかなか響かない。
また演奏を聴きたいと何度か老人ホームを訪れるうちに、一癖も二癖もあるホームの老人たちとの交流が始まる。
老人ホームが舞台となると、昨日まで元気だった人が急に亡くなったりとか、あんなに言葉を交わしていたのに急に認識されなくなったりと悲しいことが頻繁に起こる。
御多分にもれずそんな出来事なども起こりながら、親のすねをかじるだけの生活をしていた主人公がようやく動き出すきっかけになるおばあさんとの出会いがあり、別れがあり・・・ほろ苦い気持ちになりつつも、やっぱり瀬尾さんの作品はほっこりするから好きだわ。
サックス奏者の男の子は、「あと少しもう少し」に出ていた子みたいなのだけど、前に読んだきりで思い出せない。
瀬尾さんの最近読んだ作品が結構前の作品の続編とかのことがあったりするので、また改めて読み直したいなーなんて思った。
(4点)
久々の乾さん。なんかうちの地区の図書館は蔵書があまりそろっていなくて、乾さんの作品があまりおいていない気が・・・。読んでいないものがあったので手に取る。
昔からその土地に住んでいた人とニュータウン組との確執は、子供たちにも影響する。
綺麗で洗練されたニュータウン組は古臭い昔ながらの生活を営む土地の者を見下す。
学校でも見事に分裂してしまうグループを校長が何とかして交流させようとするのだけど、交流の場である林間学校で事故が起こってしまう。
土砂崩れで引率の先生など大人たちが死亡、退路を塞がれ、道なき山を越えて下山することになる子供たち。
登山装備も食料や水も限られた数しかない、本当に無事に帰れるかもわからない過酷な状況で、いがみあっていた子供たちが少しずつ協力しあうようになる。
後半は山の中のサバイバルそのもので、トイレや虫問題などの山あるあるが沢山出てきて登山好きとしてはそっち方面でも読んでいて楽しめたのだけど、山の中で水がないとか体調を崩したっていう状況はとにかく怖いなと・・・。
(ネタバレあり)
いつの世も大人たちの都合に振り回される子供たち。
無事に下山し、仲良くなった子供たちが結局歩み寄れずに終わってしまうのも大人の都合。でもこれが現実なのかもと思わされるほろ苦い結末だった。
(4点)
■もう逃げない。/和歌山カレー事件 林眞須美死刑囚長男
実際にあった事件のルポなどは、ノンフィクションならではの生々しさと同時に硬さがあって、読みやすいと思うものは少ない気がするのだけど、これはかなり読みやすかった(単純に文章が上手い。読みやすい)。
そして、本当は施設や社会に出てから色々と辛い目に遭ってきたのであろうに、割とライトに書かれていたりするので、読んだ後も嫌な余韻などは残らなかった。
読み終えて思うのは、本当に林眞須美が犯人なのだろうか・・・?という疑問。
私は当時中学生くらいだったかしら。
連日のニュースは当然のように林氏が犯人のように扱っていて、マスコミに水をまく(あの有名な)シーンは鮮烈に印象に残っていて、犯人であると疑ったこともなかった。
が、実は捜査の杜撰さがボロボロと出てきていることや、決定的な証拠がないこと、これまでの保険金詐欺とは目的が異なる事件であることなど、犯人説は確実な証拠に裏付けられていないということを知った。
死刑は今に至っても実行されていないが、真相は一体・・・
そして長女の心中と思われる事件と、その娘の虐待死のニュースも入ってきて、事件をめぐる因縁とも思える負の連鎖に胸が苦しくなるのだった。
特に本書で長女は施設を出て自力で就職先を見つけ、妹弟たちを援助したり、毅然とした態度で親の無実を信じる強い信念を持った人という描写があるだけに、その長女が虐待?心中?とニュースの情報に驚き、抱えてきたこれまでの苦労は相当なものだったのだろうと容易に想像でき、悲しい気持ちになった。
(4点)
■正欲/朝井リョウ
上半期一番ガツンときた本かもしれない。
朝井さんの10周年記念作品の黒版ということで、一筋縄ではいかないと思っていたけれども、こういう切り口で切り込んでくるとは。
タイトルは「正しい欲」なので、実際の性欲とは関係ない話なのかなと思っていたら、こういうことか。。
多様性という言葉が最近やたらと登場するようになって、LGBTを理解しよう、認めようという風潮が高まっている。
そんな中で、LGBTの、いや対人間の枠にも入れない対象に性欲を抱く様々な性癖を持つ男女の苦悩が描かれる。
冒頭の少し読みづらいとも思える誰かの言葉と、とある事件のネットニュース記事。
これがどこに繋がっていくのか?と3人の視点で紡がれる展開に戸惑いながら、少しずつ事件の真相を理解していくと・・・
あのときこうだったら、もし彼らがもっと早く出会っていたら・・言いようのない感情たちが濁流のように押し寄せてきて、やりきれない気持ちになる。
これは文庫化したら買おうと思う。
あと、この話の中に出てくる水に対して特別な感情を持つ性癖の人って本当にいるのかな?自分の中では未知な世界過ぎてある意味新鮮だった。
(5点)
■三月は深き紅の淵を/恩田陸(再読)
理瀬シリーズの最新作が数十年ぶりに出たらしい。
それを知り、すごく面白かったシリーズの印象だけが残っているのにすっかり内容を忘れてしまっているため、再読することに。
シリーズ1作目は、何とも難解な4編。
「三月は深き紅の淵を」という作者不明の本が共通のテーマとなっていて、その本にまつわるミステリ展開が4編ほど。
ちょっと難しくて入り込みづらい本もあるものの、最後の理瀬シリーズに繋がる章の不穏さは恩田さんならでは。
新刊を読むまでに再読を終えておきたいところ。
(3.5点)
下半期に続く