私と彼の中にある、確かなもので、悲しみを越えて行こう…。新しい恋を始めた3人の女性を主人公に、人を好きになること、誰かと暮らすことの、危うさと幸福感を描き上げる感動の小説集。
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ノミネートされる度に期待されているのだけど、なかなか受賞できないの嬉しいような悲しいような。
島本さんはとても好きな作家の一人なので、色々な人に読んでもらいたい。
でも、売れてしまうのは何だか悲しいような不思議な気持ちです。
でも、売れてしまうのは何だか悲しいような不思議な気持ちです。
今作は、二人で暮らすという冒険を始めてみた恋人たちの3つの短編を収録した一冊になっています。
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徹平と暮らし始めて、もうすぐ半年になる。だけど今が手放しで幸せ、という気分ではあまりなくて、むしろ転覆するかも知れない船に乗って、岸から離れようとしている、そんな気持ちがまとわりついていた-
眠りが浅く、なかなか眠りにつけない珠実。
いつも眠る時、手を握ってくれる徹平。
いつも眠る時、手を握ってくれる徹平。
会社員である彼と、保母をしている珠実は土日にしか一緒に昼食をとれない。
だから休日には少し凝ったものを作って、一緒にお昼を食べる。
だから休日には少し凝ったものを作って、一緒にお昼を食べる。
一緒に暮らして分かり始めた、微妙な感覚のズレ。
今は亡き父の面影を持った徹平。
珠実の幼少時代の父の存在・・
今は亡き父の面影を持った徹平。
珠実の幼少時代の父の存在・・
「あの夜」を境に、穏やかには暮らせなくなってしまった。
一見幸せそうに続いているはずの日々が、途端にギリギリのバランスを保ったものになってしまう・・。
一見幸せそうに続いているはずの日々が、途端にギリギリのバランスを保ったものになってしまう・・。
そして珠実の体調の異変。
病院を訪れて出た事実。
その事実を前に徹平は・・・
病院を訪れて出た事実。
その事実を前に徹平は・・・
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幼い頃、父から早く寝ないと熊が来ると言われ、常におびえていた珠実。
しかしそれは・・熊におびえていたのか?それとも父におびえていたのか。
しかしそれは・・熊におびえていたのか?それとも父におびえていたのか。
幼少の頃の想いは、父の面影に重なる徹平の「あの夜」の出来事で濃さを増す。
何かを問いかけても言いよどみ、または話をそらす徹平の想いとは・・
ラストは読み手としても心配になる部分はありつつも、前向きに終わるのでほっとしました。
こういう繊細な話は、胸が痛みます。
後期試験の打ち上げに鍋でもしながら夜通し飲もうと大学の男友達が、霧島のアパートにやってくることになった。
その中に都築新という、霧島の苦手な男が来ることになった。
その中に都築新という、霧島の苦手な男が来ることになった。
横浜に実家があるにも関わらず、親から与えられた1LDKのマンションで一人暮らしをしているという都築。
霧島の家に来て早々、「ユニットバスが狭い」と文句を言い始めた事でますます不快に感じたのだが。
たまたま翌日霧島が作ったご飯を一緒に食べたことで、何故だかたまにご飯を食べにくるという関係が始まった。
「自分をワニに似てると言ってくれた人に惚れる」
と言った都築。
疑問に思って聞き返すと、「ワニ園」にいるワニのなんの役にも立たず、なにも傷つけず、必要最小限の欲望だけで生きてる。そういうのって素敵だろと言うのだった。
疑問に思って聞き返すと、「ワニ園」にいるワニのなんの役にも立たず、なにも傷つけず、必要最小限の欲望だけで生きてる。そういうのって素敵だろと言うのだった。
都築がご飯を食べに来るようになってしばらく経ち、都築の彼女と大学の友達と4人でご飯を食べに行くことになった。
着飾った彼女。
対照的な自分。
対照的な自分。
彼女に代表されるような、苦労もせずに与えられた平和の中で平気で文句を言える、そういう育ちの子たち、すべてが憎いのだ。
一度だけ付き合った年上の彼氏との微妙なブレ。
あの頃の気持ちを、都築が思い出させる。
あの頃の気持ちを、都築が思い出させる。
柄にもなく着飾り、意識してしまう霧島。
しかしそんな気持ちに都築は気付くはずもなく・・
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好きになりかけているのでは?と思う霧島の複雑な思い。
彼女がいながらも、霧島と二人で遊んだりする都築。
彼女がいながらも、霧島と二人で遊んだりする都築。
それは、女として意識されていないという事なんだなあと分かるから痛い。
最後の霧島の復讐は、何だか悲しい結果になってしまったけど。
ああでもしないと、きっと気付かないんだろう。
ああでもしないと、きっと気付かないんだろう。
部活の顧問だった先生が亡くなり、通夜に行ったあと、元部員たちで近くの居酒屋へ向かった。
そこで酔い潰れて倒れていた後輩、荻原を近くの自分のアパートまで運んだ志麻。
そこで酔い潰れて倒れていた後輩、荻原を近くの自分のアパートまで運んだ志麻。
翌日起き上がった荻原は、志麻の顔を見ていきなりこう言った。
僕、ずっと志麻先輩のことが好きだったんです
地味で目立たなかったあの頃。
まして好かれていたと思うような記憶がなかったので、それ以上聞くことも出来ないままその日から荻原が家にやってきては一緒にご飯を食べたり、優しいキスをしたりした。
まして好かれていたと思うような記憶がなかったので、それ以上聞くことも出来ないままその日から荻原が家にやってきては一緒にご飯を食べたり、優しいキスをしたりした。
猫は好き?
志麻がそう尋ねると、好きだと答える荻原にほっとする。
あれ以来荻原から「好き」という言葉や、「付き合う」という言葉がなく、だんだん好きになってきたのでは?と思いながら躊躇している志麻。
一方、すんなりと日常に溶けこみはじめた荻原。
一見付き合っているかのようだ。
そして志麻は話を切り出す。
好きだと言ったものの、お互い付き合おうとか好きだとか言わなかったこと。
荻原が何故好きだなんて言ったのか?ということ。
荻原が何故好きだなんて言ったのか?ということ。
荻原は答える。
あの時助けた仔猫の話を。
そして志麻は語りだす。
以前付き合っていた人と、飼い猫マダラとの悲しい思い出を・・
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個人的にはこの話が一番好きですね。
まあ全然あっていなかった後輩を家に入れちゃう時点で危ないけど(苦笑)
ただ荻原は純粋に志麻が好きだったんだなあと思えるのでほっとしました。
ただ荻原は純粋に志麻が好きだったんだなあと思えるのでほっとしました。
それにしても元彼の話が・・辛かった。
猫のマダラが可愛いです。
でもこの話はちゃんとしたハッピーエンドになっているので、ご安心を。
3編を通してみて、島本さんのあの不思議な余韻を残す恋の話は健在でした。
そこに秘められた想いが加わり、物語の展開が平坦ではなくなる・・
やっぱり島本さんは大好きな作家ですね。