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いい意味での青臭さ 「つばき」

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「何か青臭いっていうか・・・」

友人に、何かお薦めの音楽があったら貸してくれと頼まれ、私はつばきを貸した。
その時に友人が言った言葉が、これである。

青臭い、か。
人によりけりだとは思うが、青臭いとはどんな意味だろう?

【青臭い】アオクサイ

1 青草から発するようなにおいがする。

2 人格や言動などが未熟である。

この場合、2を指すのだろう。
未熟・・・
確かに、まだまだ伸びる可能性を秘めている未熟なバンドかもしれない。
だけど、そうだろうか?
それだけで語りつくせるバンドだろうか?


つばきと私との出会いはタワーレコードの試聴コーナーだった。
確かポップには「茶色い髪が似合うあいつは俺を笑う」という「夢見がち」の歌詞が大きく書かれていたと思う。
どんな歌だよ!と心の中で、ツッコミを入れながら手に取ったのは・・・

つばき初の全国流通盤『夜と朝の隙間に』だった。

ジャケットの、何と簡素なこと。
薄桃色のこれは、夕焼けだろうか?
その控えめな佇まい。

一曲目の「ループ」


  この音が君の声なら何度も 繰り返し聞いていたいよ
  でも頭から離れないこの音は 聞こえないはずのサイレンの音


重々しいサウンド
決して抜け出せない闇の底にいるかのよう。
なのに、どうしてだろう。
とてつもなく耳に残った。

気付けば、闇の底ではなく、私自身が「つばき」というアーティストから抜け出せなくなる事になろうとは。
この時は夢にも思わなかったのである。

二曲目の「風向き」


  分かりやしない誰も彼もが 本当の事を 本当の意味を
  伝わらないなら届かないなら いっそ消えてしまいたい


疾走感溢れるサウンドに、どうしようもない想いを歌詞に乗せている。

つばきはしばしば、そんな絶望や焦燥を歌詞にする。


それは、六曲目の「冬の話」でも見ることが出来る。

 
  思い出は 返さない 強く願う 僕だけど
  時が経ち 少しずつ 少しずつ 枯れてゆく

  もしも僕が死んだら 笑って忘れてくれよ


どんなにネガティブなアーティストでも、ここまで言い切った人などいるのだろうか。

もしも自分が死んだら、笑って忘れてしまう人などいるのか?
そう言いきってしまう自分自身は、空しくないのか?

そんな思いを抱きながら聞いているうちに、いつしか自分の中でこの曲は名曲だという思いすら沸いてきている。

「つばき」は、3ピースのバンドである。
ボーカル&ギター、ベース、ドラムというシンプルな構成。
しかし、驚いたのは、ドラムを叩いているのが女性だということ。
何と力強い音だろう。 

それから、私の中で「つばき」は特別なバンドになっていった。

その後2枚のシングル『来る朝 燃える未来』『青』
タワーレコード先行販売『片道キップ/八月』を発売する。

そして1stフルアルバム『あの日の空に踵を鳴らせ』

はっきり言う。
これは名盤である。

一曲一曲が深く、繊細な作りだ。

今までダークな世界を描いているイメージが強かったつばきだが、このアルバムでは多様な世界観を描き出している。

三曲目の「雨音」


  全てがきれい事に聞こえる きれい事すら言えなくなる夜
  それでも信じれる言葉探す それでも信じれる自分を探す


何処か冷めていながら、懸命に何かを見つけようとする姿勢、というか。
ある種前向きとも捉えられる歌詞。
サウンド的にはやはり重めではあるが、深い。


五曲目の「アセロラ


  こんがらがった 頭と生活が続いてる
  どうにもならない 何となくの一日が過ぎてく


この歌詞。
誰しもあるのではないだろうか?
「何となくの一日」というものは。

サビの感じが好きだ。
次から次へと言葉が押し寄せてくる感じ。

戸惑い、もがこうとするような。
現状を突破したい、だけどもがき続けているような。

惹き付けられて、いつの間にか好きになる一曲。


七曲目の「曖昧な夜」


  所詮そんなもんさ どうせそんなもんさ 君のためには死ねないのさ


このフレーズが、何故だかとても耳に残る。
曲調的には、全体的にスローテンポな曲である。

どこか淡々として、冷めた目線。
そんな中に、このフレーズ。

「冬の話」では、「もしも僕が死んだら 笑って忘れてくれよ」と言っていた。
今度は、「君のためには死ねないのさ」

この矛盾。
いや、矛盾ではないか。

と考えているうちに、また頭から離れないつばきの音。

そして、八曲目「君のヒゲ」

  
  誰だって人前じゃ 背伸びくらいするのに
  「ねえ君は そんな人間じゃないよ」
  そんな風に言われる 俺は誰なの?


ライブの時、非常に盛り上がって楽しかった一曲でもある。

挑発的というか・・・このスピード感。
面白い。
つばきの意外な一面を見たような。
ワクワクするような、ドキドキするような。
たまらないこの気持ち。


十二曲目。最後の一曲「サヨナラ」


  人生なんてこんなもんか 会いたい時に会えなくて
  後悔ばかりしているよ そう思うとまた死んだふり


今度は「死んだふり」
死という歌詞が、様々に形を変える。

自分自身でも、大切な人との別れが重なっていたこともあり、思いいれが深い一曲でもある。
こんな歌詞なのに、曲調はあくまで明るい。

前向きな歌かと思わせて、歌詞は、こんなにも重い。

その正反対な所にまた、惹き付けられるのだ。


そして、シングル曲『昨日の風』

いわゆるメジャーデビュー曲というやつである。

収録曲の3曲全てが、シングル候補に挙がっていたというだけあって、完成度の高い一枚である。

捨て曲というものがない。

表題曲の「昨日の風」の疾走感と、切ないサウンド、つばき独特の重厚なサウンド
惹き付けられて止まない。

二曲目の「夢のあとさき」


  たまに嫌になるんだよ 後悔もするんだよ
  自分すら分かってないね


自分自身に課せられた役目。
自分の事を、自分自身で見つけて答えを出さなければいけない。
いつまでも人に頼ってばかりはいられない。
だけど・・・絶対に、こういう事はあるだろう。
自分自身ですら、自分の事を分かりきっていないだろう。


そして、最新作『もうすぐ』

表題曲「もうすぐ」と「街風」『あの日の空に踵を鳴らせ』の中にも収録されている「猫」のアコースティックバージョンが収録されている。


特に印象に残ったのは、二曲目の「街風」

 
  どうしようもない どうしようもないな
  どうしようもない そんな俺も何もない
  何言えばいい 何言えばいいんだ
  分からないけど そんな二人ここにいる


先日音速ラインも同じタイトルでシングルを発売したが、アーティストが違えば、こんなにも違う曲が出来るものである。

爽やかな風。
優しいサウンド

だけど、葛藤する。
どうしようもなく、ただ「どうしようもない」としか言えない状況。
自分自身を見失いそうになり、ただ繰り返す「どうしようもない」

決して重苦しいだけの歌ではない。
しかし何度も繰り返す「どうしようもない」というフレーズが、耳に残って離れない。

誰もがきっと、一度は通るだろう「どうしようもない」状態。

だけど最後つばきは言う。


  変わらない言葉や涙を抱きしめた僕らの世界に
  響いた ここにいる全て伝えようとする声が

  見つからないけれど 分からないけれど
  どうしようもないけど そばにいよう


そして、私は救われた気持ちになるのだ。

どうしても、つばきを語ると簡潔に語ることが出来ない。

それは、つばきがただ「青臭い」だけのバンドではないという理由にもなりえるのではないだろうか?


出会った時から、確かに心を掴まれ、いつの間にか抜け出せない。
そんな不思議な力がつばきには、ある。

今はまだ未熟かもしれない。
しかし、新しい音源を発表する度に、期待を裏切らない。
それは確実に、彼らが一歩ずつ成長しているという証になるのではないか?

自分でも上手く表現出来ない。
こんなにもいいバンドだという事を伝えたいのに。
もどかしい。
どうしようもない。

そして、つばきからはもう当分目が離せないだろう事も・・・
やはり「どうしようもない」のである。