No-music.No-life

ヤフーblogから移行しました。

風神の手

イメージ 1


彼/彼女らの人生は重なり、つながる。隠された“因果律”の鍵を握るのは、一体誰なのか―章を追うごとに出来事の“意味”が反転しながら結ばれていく。

道尾秀介さんの本です。

道尾さんの新作を読む度に沸き起こるこのワクワク感。
毎度本を手にする度に今回はどういう話だろうと思いながら読む大好きな作家であります。

今回は道尾さんらしく優しい目線で描かれつつも、どこか切なさと危うさのある作品でした。

ここ最近はコミカルな展開からのどんでん返し、といった娯楽的な作品が多い印象だったのですが、
今回は久々にちょっと重そうな雰囲気も漂う私が好きな展開でした。

各章毎に登場する人物は他の章でリンクしていて(というか、物語が一つの小さな町を舞台にしているのもあり、地続きになっている)、それも好みでした。

一章目は死期が間近に迫った母親が遺影専門の写真館で見つけた一つの写真がきっかけで、娘に過去の出来事を語る展開です。

母親が誰かを殺したのか?何か不穏な空気が漂う中、母親の告白は続きます。

最終的に、嘘が嘘を読んでのすれ違い、勘違いが上手く重なり、複雑に絡み合っての今につながっているのですが、それがまた誰かを貶めようとしてついた嘘ではないだけに、もどかしくもなりました。

ただ、母親が10代の頃から抱えてきた重しが外れ、逝くことができたのならそれだけが救いかなと。

その後に続く章も不穏な空気を醸し出していたりしますが、最後は大楕円。

嘘の種類には色々あるけれど、その嘘が誰かの運命を変えたりすることもあるのだなとしみじみ感じました。

その嘘によって生まれてきた命が、交わらないと思った関係が繋がっていく奇跡というのもまた良いものです。

どうでもいい話ですが、道尾さんが描く女子はやっぱり好ましいなあ。

(4.5点)