31歳の桃子は実家暮らしで未婚。自分の中で培ってきた“ルール”を厳格に守り、家族や勤めている会社の人間にも一切スキを見せることなく暮らしている。ある日、桃子の携帯に弟の健太から2年ぶりに連絡が入る。子供の頃から迷惑をかけられっぱなしで、「一家の癌」だと思っている弟からの連絡は意外な内容だった…。
飛鳥井千砂さんの本です。
発売していた割にあまり話題になっていなかったなあ・・・と思ったら、なるほど。
飛鳥井さんの今までの作風とは少し違いますね。
冒頭では、デビュー作の「はるがいったら」の園にも似た完璧主義の主人公だなあと思っていたのだけど、弟の彼女の奇抜さは、「学校のセンセイ」のあの女の子を思い起こさせる。
当初は主人公に対して普通に読んでいたものの、弟の彼女の見た目に対する批判、自分がこうだと決めたことや自分を正当化して他人を批判していくことしかできない完璧主義さに、だんだんといら立ち始めました。
ならば自分の「不倫」はルール違反ではないのか?
自分は決してルールを反してはいない、と言い切る根拠は何なのか?
登場した時ほど強烈で下品な印象を受けた弟の彼女の雅美だったけど、後半にいくにつれ、一番まともなのは雅美なのではないか・・・と思えてくるのは何だろう?
そして、我が家の癌だと思っていた弟は、姉のことこそ癌だと思っていたと・・・
ラスト、雅美が主人公を諭して現実をつきつけて、もしかしたら姉は変わっていくのではないか・・・と思ったのに、まさかのあの展開。
きっとこの主人公は、これからどんどん堕ちていくのでしょうね。現実から顔をそむけて。
読後感も読んでいる途中も始終嫌な気持ちになるのに、飛鳥井さんの筆力のせいか、続きは気になるという不思議な感覚で読んでおりました。
後味悪いのは嫌いではないんだけど、登場人物の誰もに共感を抱けなかったせいで、何とも言えない気持ちで読み終えたのでした。
(3.5点)