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ある少女にまつわる殺人の告白

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「今日的テーマを扱いつつ、難易度の高いテクニックを駆使し、着地の鮮やかさも一級品である」と『このミステリーがすごい!』大賞選考委員・茶木則雄が絶賛した2011年『このミス』大賞優秀賞受賞作です! 長崎県児童相談所の元所長らが語る、ある少女をめぐる忌まわしい事件。10年前にいったい何が起きたのか。元所長、医師、教師、祖母……様々な証言が当時の状況を明らかにしていく。


佐藤青南さんの本です。
 
第9回「このミステリーがすごい!」大賞の優秀賞作品の一つ。
大賞の「完全なる首長竜の日」と優秀賞の「ラブ・ケミストリー」の両方を読んでいるので、巻末の選考委員の厳しい選考評価も読んでいます。
 
湊かなえ【告白】が三百万分以上売れている今、DVの話を関係者のモノローグ形式で書くというのは、新人賞応募作としては致命的に間違っている」と酷されていた作品だったので、勝手に期待値を下げていました。
図書館で借りてみたものの、正直全く期待さえしていませんでした。
 
ところが、新人とは思えない筆致。
新人の作品は読みにくいと感じる事が必然的に多いので構えているのですが、思っている以上に読みやすい文章に驚きました。
 
また、モノローグ形式ということで、育ちも性別も年齢も職業も違う様々な人間が語りながらストーリーが進むのですが、その書き分けも上手かったです。
 
そして完全にミスリードされる展開、最後のどんでん返し。
途中から「あれ?あれ?!」と気付いた時にはまんまとミスリードされていて、まさか・・・そんな・・・!と思いながらページをめくる手が止まりませんでした。
 
これだけ理不尽な暴力と裏切りにあってきた少女が、屈折しない方が不思議な事なのかもしれません。
ある人にとってはしっかりとしたお姉さんで、ある人にとっては虐待を受けているにしては聡明で強い女の子であり、ある人にとっては自分がいなければ生きていけないと思うような人間でもあり。
 
怖いのが、少女に関わる複数の人間が登場することにより、共通の人間が話の中に出てくる訳です。
ある人が話している時にはクラスの人気者である男の子が、実は影で猫を殺しているかもしれない噂があるという側面が見えてきたり、理不尽な暴力に耐えてきた少女の屈折した部分が見えてきたり――
 
その中で、児童相談所の慢性的な人不足と理不尽な環境という現実にも切りこんでいます。
内容が内容だけに一息に「面白かった。また読みたい」と思えるものではないものの、間違いなく力作だと私は思いました。
個人的には・・・同じく優秀賞の「ラブ・ケミストリー」が微妙だったのでそれよりは上。
だけど「完全なる首長竜の日」もかなりの力作だったので、やっぱりこの回の大賞は乾さんなのかなあとも思います。
久しぶりに一気に本を読んでしまったという作品でした。
(5点)