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水底フェスタ

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村も母親も捨てて東京でモデルとなった由貴美。突如帰郷してきた彼女に魅了された広海は、村長選挙を巡る不正を暴き“村を売る”ため協力する。だが、由貴美が本当に欲しいものは別にあった―。辻村深月が描く一生に一度の恋。


辻村深月さんの本です。
 
辻村深月が描く一生に一度の恋。」という帯は、無視してほしいです。
というか、図書館で借りているのでその帯がついていなくて良かった、と思いました。
 
ユーザーレビューでも書かれていましたが、恋愛小説だと思って読んだら多分良さは伝わらないと思う。
全く予備知識なしで、まっさらな状態で手にとって、一気に読んで欲しい。
そんな作品でした。
ただ、個人的には「アリ」な作品だと思いました。


辻村さんは、女同士のあの独特の嫌な感情、しがらみなどを惜しげもなく描きますよね。
今回も、主人公の広海を好きな幼馴染の女の子や、広海の母をこれでもかこれでもか、というくらいに毒々しく悪意たっぷりな文章で表現している。
もうそれが、本当に的を射ているんです。嫌になるくらい。
 
そんな中で、モデルで女優の由貴美の栄光と転落がそれはもうリアルにリアルに描かれて、何とも言えない気分になるのです。
 
ただ、もう何と言っても私は主人公の広海にあまりにも自分が似ていて、恥ずかしくなるくらいもうやめてー!って思うくらい、読んでいてむずがゆくなりました。
 
この作品の中で描かれる退廃的で閉鎖的な村、そこまで田舎には住んでいない私だけれども、世間一般的には田舎と言われる所に住んでいる。
けれども必死で都会にすがりついて、置いていかれないように、私は田舎にいるけれども、ここに住んでいる人とは違うんだ。
この場所で一生を終えるつもりなんてなく、あんたらより上の位置からきちんと世界を見る事ができている。
この世界に甘んじている訳ではないけれど、仕方なくここにいるんだ――
みたいな、ね。
 
なんていうか、一番田舎に縛られているのは自分自身だっていうことに本人が気付いていない感じが・・・もうリアル過ぎて、息が苦しくなるほどでした。
しかも、夏フェスや人が聴かないような良質な音楽をきちんと知っていて、良さを理解していると思っている所までがまた、自分と似すぎていて・・・。
 
田舎を馬鹿にしつつ、同時に田舎を愛しているのだなあと分かる、田舎の陥れた書き方ができるのが豊島ミホさんだとすれば、田舎を馬鹿にして、やはりその田舎の世界観を甘んじて受け入れる事しかできない田舎の人間をひたすらに見下して書けるのは、辻村深月さんだと思う。
私は幸いにして、どちらの感情も何だか理解できてしまうから、だからこの二人の作家が大好きなのです。


でまあ、話は戻りますが・・・・
冒頭からFUJI ROCKっぽい夏フェスの描写が出てきたり、音楽談義(ジャンルは違うが)などの表現があることで期待感が嫌がうえにも高まるのですが、モデルの由貴美と広海が出会い、村への復讐をしたいと企む由貴美の思惑と魅力にどんどんのめりこんでいく広海の日常から非日常へ「転落」する様が描かれていきます。
 
平凡で何処か上から家族や友達、周囲の人間に対して見ていた主人公が、狭い世界から連れ出してくれる、広い世界感を持った芸能人の由貴美と出会う。
恋人同士なんかではない、もっと強い繋がりを持ったことで、知ってしまう、自分が知らなかった黒い真実。
 
悲劇的な展開が、いつもの辻村さんらしく最後にはハッピーエンドになるんだよね?と思いながら読んでいたのに、結末はあまりにも切なかったです。
 
帯を見ずに読んでいるならば、なるほどラストの広海と由貴美とのシーンで、狂おしい程の恋の切なさにやられるのですが、確かにこの作品全体を通して「恋愛小説」と謳われてしまうのならば、それはちょっと違うな、と思う。
 
閉塞的で身内に優しく他人に厳しい、田舎の小さな村の組織の怖さが、恐ろしくなります。
こうやって隠滅されてきた数々の悪事、事件が何度あったのだろう・・・
 
息子や家族に理解ある父親としか見えなかった広海の父が、最後にはとんでもなく恐ろしく思えてしまいました。


文句みたいな感想になってしまいましたが、それでも私はこの作品を好きだと思います。
 
まあそれは、多分に主人公に共感し過ぎたせいもあるのかもしれないけれど。
それにしても、高校生のくせにませたガキだぜ(笑)!
 
今回は、初の具体的な男女間の恋愛描写があるので、そちらにも驚きましたが。
そっち方面だけで変に話題にならないでほしいかな。
個人的にはミステリとしても不穏な空気が漂う雰囲気が凄く良かったです。