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百瀬、こっちを向いて。(文庫版)

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「人間レベル2」の僕は、教室の中でまるで薄暗い電球のような存在だった。野良猫のような目つきの美少女・百瀬陽が、僕の彼女になるまでは―。しかしその裏には、僕にとって残酷すぎる仕掛けがあった。
「こんなに苦しい気持ちは、最初から知らなければよかった……!」 
恋愛の持つ切なさすべてが込められた、みずみずしい恋愛小説集。


帯には、著名人からの推薦文↓
 
「凄い! このありふれた世界からいくらでも新鮮な物語を掘り出すね。」/映画監督・岩井俊二
「どれも若い世代の淡い恋愛感情の芽生えを描き、繊細ながらもユーモラスで、叙情的でありながらコミカル。ぎゅっと抱きしめたくなるような、愛おしい作品ばかりだ」/ライター・瀧井朝世


中田永一さんの本です。
 
中田さんとの出会いは、アンソロジー小説のI LOVE YOUの中の一編、表題作でもある「百瀬、こっちを向いて」でした。
このアンソロジー伊坂幸太郎さん・石田衣良さん・市川拓司さん・中村航さん・本多孝好さんと、市川さん以外は全て私の好きな作家が豪華勢ぞろいした素敵な小説でございました。
アンソロジーはほとんど外れが多い、というのが私の持論なのですが、この作品だけは外れはない!と断言します。
有名な作家が揃う中、聞いた事のない作家さんがいる――それが、中田永一さんでした。
 
しかし読み進めてみると、何処か懐かしい・・・何だろう、読んだ事があるようなこの感じは・・・
ひらがなと漢字を巧みに使い分けた独特の文体と、限りなく底辺レベルの地味な主人公を描く上手さ、焚火やとある九州地方の田舎を舞台にした作品が多いのは・・・まさか、もしや・・・あの人なのでは?という思いが強く湧き上がりました。
 
ネットで調べてみると、この作家は覆面作家であり、某有名なあの作家が書いているらしい!
そしてその作家とは、やはり私が思い描いたその人なのでした。


ともあれ、そんな先入観をなしに読んでみても、後から後から作品の良さがじわじわと出てくるというか。
また読み返したいなあという思いで一杯になり、単行本が出た時は本当に読むのが楽しみで仕方がなかったくらいでした。
読んだ後も大満足で、文庫が出たら絶対買う!と心に決めていたのに、発売して大分経ってから文庫化されていたことに気付き、初版を逃すという失態をおかした私でした(笑)


この作品の良さは、解説を書いている瀧井さんの解説だけでも十分伝わるとは思うのですが、一つ抜けている事があるので言わせてもらいたいと思います。
 
底辺に存在したことがある人だからこそ、ここまで底辺の人をリアルに描く事ができているのです!
地味な人なりの人生があって、そうそう、生きててすみません!と思いながら、地味に目立たず生きている人間だってこの世の中にはいるのですよ!
そんな人間を描いたら右に出る者がいないのは、乙一さんと(笑)中田さんと豊島ミホさんくらいじゃないでしょうか?
 
だからこそ、地味な底辺女子高生だった私にはあまりにも感情移入し過ぎてしまうのかもしれませんね。
私も、本当に高校の頃は自分に彼氏ができるどころか、まともに男子とも話ができるようになるなんて思ってもいなかったから・・・。
 
本作を初読時には、「小梅が通る」が凄く良かったと思っていましたが、今回は表題作の「百瀬、こっちを向いて。」の主人公の友人が、主人公の恋心を率直にうらやましいと思うこと、大切な気持ちであることを諭すシーンで物凄くぐっときてしまいました。
また、主人公が百瀬に対して、なんて罪づくりな事をしてくれたのだ・・・百瀬に出会ってしまったから、もう今までみたいに一人でいることが普通であるという生活に戻る事ができないではないか!という葛藤シーンにも何だかかなりぐっと来てしまいました。
 
それと、「なみうちぎわ」の二人の関係も凄く良いなー。
というか、全部良いのですが!
 
これは後々も読み返したいお気に入りの作品になりそうです。
大満足の一冊でした!
 
単行本版「百瀬、こっちを向いて。」の感想記事はコチラ↓