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空とセイとぼくと

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ホームレスだった父親は死んだ。住むところも無い。でも、犬のセイとエサを探し、遊び、一緒に寝ることさえできれば良かった。セイといれたら、それで満足だった。だが、零が一四歳になったころ、セイがフィラリアにかかってしまう。読み書きすらもできないけれど、ずば抜けた嗅覚を持ち、女性の発情が臭いでわかる零は、セイの治療費を捻出するため新宿でホストとして働くことになる。源氏名は「ポチ」。全てが初体験。だが零は次第にその能力を開花させていく―。犬と二人きりで育った数奇な運命の少年が、犬との絆を守りながら成長する姿を、ユーモアとリアリティ溢れる筆致で描いた感動作。


久保寺健彦さんの本です。
 
地元の図書館に置いてあって、もう大分前からずっと目についていた本でした。
タイトルから、何となくいかがわしい内容の本なのではないか?と敬遠してしまって、気になるのに見ないふりをしてやり過ごしてきたのですが。
この前購入した文庫の後ろのページに、この本が文庫化したらしく紹介が載っていたのを見て、あ、いかがわしくなさそうって思って(笑)
 
そしてやはりフィーリングって凄いですね!
読んでみてもうぐいぐい惹きこまれてしまいました。
 
文章が上手いとかそういうんじゃないんですけど・・・(勿論下手じゃないですが)、人を惹きつける文章でした。
 
母親に捨てられた父と息子。
上野公園で生まれ、手作りの家と集めてきた食糧で生活をする毎日。
幼いうちからその生活に慣れていて、親を恨んだ事もない。
そんな零と、突然やってきた犬のセイ。
 
父親を突如失くし、施設から脱走した零は、それから7年以上もセイと共に生活を共にすることになる。
 
年齢を偽ってホストの仕事につき、そこで問題を起こしてリカという女の子に拾われることになった零。
 
ストリートダンスの世界にのめり込み、ダンスの練習をする傍ら、いつでもそばにセイがいて平穏な日々を送っていた零だったが、リカの訳ありの過去に巻き込まれ大けがを負ってしまい――


年老いていくセイをどうしようもなく見届けるしかできないでいる零の気持ちが伝わってきて、痛いです。
 
何となく全編不穏な空気を醸し出しているのですが、決して悲劇的な展開では終わらないのだけど・・・何とも切ないこの読後感は何なのでしょう。
 
親もない、家もない、名字もない、学校にも行っていないから、零は見る者聞く者のほとんどが初めてで何も分からない状態です。
だからこそ、人を疑う事を知らない。
それが世間ではとても怖い事なのだなあと実感しつつ、それでもそういう素直な心の持ち主だからこそ、不思議と零の周りに集まってくる人間は良い人ばかりで・・・それだけが救いでした。
 
どうか零と優子(リカ)が平和に暮らしていけますように――と祈るばかりなのであります。