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オーダーメイド殺人クラブ

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中学二年のふたりが計画する「悲劇」の行方
親の無理解、友人との関係に閉塞感を抱く「リア充」少女の小林アン。普通の中学生とは違う「特別な存在」となるために、同級生の「昆虫系」男子、徳川に自分が被害者となる殺人事件を依頼する。


辻村深月さんの最新刊。
辻村さんの作品は、読む前からワクワクする。今度はどんな物語だろうか?
作品のリンクは誰かな?と期待してドキドキするんです。
 
さてさて本作。
初めに言っておきますが、感想、長くなりそうです。


冒頭からラストまで、一瞬も気が抜けないと感じた。
息苦しく、呼吸もできないような窒息感を覚えるのに、だけど何故か目を逸らす事ができないような。
分厚い本なので、勿論一日で読み切る事ができなかった。
だけど、続きが気になる。早く読み終えたい。結末が気になって仕方がない。
 
多分、この作品を読んでいる間、私の心は現実になかった。
それほどに、のめりこみ、もがき苦しみながらも光を求めてさ迷っていた。そんな気がする。
 
辻村さんの作品の中で一番特徴的なのは、女子同士の(多分、男子には見えない)陰湿な部分が惜しげもなく描かれているということ。
特に本作は、辻村さん初となる中学生を主人公にした話。
中学二年生。
校則や先輩後輩の関係、受験に縛られない、一番自由でだけど窮屈な一年間。
 
そんな中学生は、子供であるが故に親や生徒に反発してもしきれない弱さがあり、学校や部活という狭い世界にしか自分の居場所がないと思いこむ。
 
主人公のアンも、突然仲の良かった友達から外され、クラスで孤立をすることになり、絶望的な毎日を過ごしている。
大人になってしまえば、いや、中学を卒業してしまえば、「何であんなことで悩んでいたのだろう」と簡単に割り切れてしまうような、本当に狭い世界の絶望に嘆き、死にたくなるほど苦しむ。
 
私もそうだった。
地味系女子グループなので、目立つ女子グループのように(そして本作のアンとその友達の関係のように)、誰かが外され、急に話をしなくなったりなんていう事もあまりなかったけれど、自分は確かに友達を外したりすることはあった。
友達にはされなかったけど、部活で先輩にはされていたし。
あの時の絶望的な気分。
そして、アンと同じように休む事もできず、ただ歯をくいしばって休みなく部活に行ってしまう自分。


この物語の主人公、アンは、少しばかり頭が良く、友達より上の目線で物事を見ている。
だからこそ、自分の居場所はここではない、こんなはずではない――と思い通りにいかない現実についていくことができず、絶望を感じている。
 
クラスでも目立つ女子のグループにいたからこそ、突然そのグループから外されることになった事で、我を失ってしまう。
強がっているふりをして、その実些細な事にショックを受けて。
 
そんな中で、クラスの地味系男子(目立つ女子グループなら、一度も話さずに卒業してしまうのだろう男子)の徳川と、とある接点から交流することになる。
 
誰かを殺したい、という願望を持つ徳川。
黒いものに憧れ、徳川に殺してほしいと依頼するアン。
 
不条理で、不健全な関係。
 
クラスでは会話はおろか、目を合わす事すらない関係。
 
息苦しい毎日を、「徳川に殺される」決行日があるからこそ、辛い現状を生き抜いて行ける。
そんな大人の自分から見たら馬鹿みたいな状況が、しかし主人公アンにとっては唯一の光なのだ。
 
 
あの頃――
同じ中学二年生の少年が、顔見知りの小学生を殺し、首を校門に置き去りにするという残虐的な事件の当事者だった。
人を殺す事には憧れもまして憧憬すらも抱かなかったけれど、たかだか14歳の、自分と同い年の男の子が犯してしまった罪の大きさに愕然としたことを覚えている。
 
そして、ただ漠然と「死」に憧れを抱いていたことも思いだす。
 
痛みのない、苦しみのない死なんて、ほとんどあり得ないというのに。
自殺する勇気なんてない。積極的に死にたい訳じゃない。
だけど、確かにあの頃の私も「死」に憧れを抱いていた。


大人になった今。
あの頃あんなにも息苦しかった世界が、本当に世界の片隅の、とんでもなく小さい世界だったことを知る。
 
中学を卒業すると同時に、先輩後輩のしがらみや校則のしがらみから簡単に解放され、今となっては何であの子と付き合っていたのか?と思うくらい気の合う子達ばかりが周囲にいて。
 
中学二年生。
一番繊細で、危うい年齢なのかもしれない。
 
そんな当時の息苦しさや焦燥をえぐられるように、ひりひりとした痛みを読み手につきつける。
 
それでも、辻村さんはラストで鮮やかにその重々しい世界をひっくり返してしまう。
 
絶対に話をしないような、リア充女子と、地味系男子。
そんなのは、中学を卒業し、大学生になるという頃になれば、簡単に外れてしまうものなのだ。
 
ラストの徳川の意外な事実にはっとし、思わず顔がほころんだ。
 
冒頭からラストまで、物語の世界観にどっぷりと漬かった一冊だった。


ちなみに、今回はチヨダコーキの名前がちらっと出て来ます。
嬉しいですね!