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チョコレートの町

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不動産会社で店長の遼は、故郷にある店舗に一時的に赴任する。閉塞的な土地柄や何事にもいい加減な家族を嫌っていたが、友人の結婚問題や、父親の退職にまつわるトラブルなどを経て、見方が変わっていく。そして遼自身も自分を見つめ直していた。共感度抜群のエピソードがちりばめられた、一人の青年の成長物語。


飛鳥井千砂さんの本です。
 
飛鳥井さんはコンスタントに新しい作品を発表してくれるからファンとしては嬉しい限り。
そして、今回もとても満足したのでやっぱり飛鳥井さんは良いなあと魅力を再確認。
 
本作を読んでつくづく思ったのですけれど、飛鳥井さんは男性が主人公の方が物語が面白い気がします。
 
「はるがいったら」「学校のセンセイ」も男の子の語りだったもんね?確か。
 
なんですかね。
20代後半の若者(青年)の描き方が秀逸なんですよ。
 
今回特に感情移入したのが、「田舎過ぎない中途半端な田舎」に住む若者が主人公だったこと。
 
 
東京(川崎)に勤めていた遼。
突然社内トラブルが起こった店舗への応援に駆り出され、意図しない形で故郷へと帰る羽目になってしまう。
 
遼の故郷は大きなチョコレート工場があり、始終チョコレートの甘い香りがしている。
駅前はそれなりに栄えているし、都会への交通の便も決して悪くない。
けれどちょっと外れた所に行けば、田圃田圃田圃――
 
田舎という程田舎でもなく、都会と言ったら偽りがあるような、そんな中途半端な田舎町が嫌で東京へ出た遼だったが、故郷に戻って昔付き合っていた友人達と再会したり、コミュニケーション不足だった家族との会話が増えた事によって、自分自身で見えてこなかったものが少しずつ見え始める。
 
自分は本当に人に必要とされているのか?
どうしてこの町から出たいと思ったのだったか?
 
今まで考えていなかった事を考える機会が増えていき――


全く同じだと思ったのが、田舎過ぎない田舎に住んでいるという点。
 
新幹線は止まらないですが、それなりに都内へ通おうと思えば通える距離だし、そこそこ栄えていてそこそこ不便はなく生活できる中途半端な田舎に住んでいるっていうこと。
 
そしてそこに定住している人間の心理が・・・田舎に住んでいたものにしか分からないだろうという核心をついているんですよ。
 
豊島ミホさんや、辻村深月さんなんかも、やっぱり田舎出身ということもあって、このあたりの描写がうまい。
そして飛鳥井さん、中途半端な田舎に住む人間が都内へ憧れるという心理を見事に描いています。
 
仕事で責任のある立場にいるからと言って、自分の存在がないと立ち行かなくなるか・・・と言われたらそうでもなく、自分の存在って何だ?と漠然と湧き上がる不安とか。
 
あー分かる!って共感し過ぎて非常に面白く読めました。
 
 
チョコレートが大好きな私は、読みながら無性にチョコが食べたくなって仕方ありませんでした。
 
 
個人的に好きなところは、遼が兄とバツイチ彼女と、自分の彼女と両親を引き合わせてくれる所。
そこから少しずつ会話が膨らみ、打ち解けて行く様は何だか読んでいてほのぼのと嬉しい気分になりました。
 
飛鳥井さん、もっと注目されて欲しい作家です!