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真綿荘の住人たち

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レトロな下宿、真綿荘に集う人々の恋はどこかいびつで滑稽で切ない……。不器用な恋人達、不道徳な純愛など様々なかたちを描く――




島本理生さんの本です。

島本さんの本は、なんだかんだと新刊ではないにしろ購入して全部手元にあるのですが、うっかり買い逃した作品でした。

久しぶりの新刊だったし、いつもとは毛色が違う作品のようだったので、結構期待していたんです。
元々大好きな作家の一人もでありますしね。


しかし・・・うーん。
なんだろ?
悪くはないんだど、中途半端になってしまっている感じが否めませんでした。


真綿荘に下宿することになった、北海道から上京してきた少年・大和君の話から始まる本作は、住人達それぞれの話が散りばめられた連作短編集という形になっています。

大和君、凄く良かったんですよ。
いかにも「人が良さそう」という田舎から出てきた少年。
無垢故に、相手の気持ちを汲み取れないという難点はあるけれど、この少年の存在が物語に大きな影響を与えている事は間違いないと思います。

また、島本さんもこの作品で「~だったのです」とか丁寧語で展開していく物語や、「大和君」という固有名詞を交えつつ三人称で語られる冒頭の一編であるとか、おっちゃんが過去を思い出して語っていくという形の展開の仕方など、
島本さんの中でも、ありとあらゆる趣向をこらして挑戦している前向きな姿勢が感じられる作品でもあり、その点についてはとても好感が持てたのですが・・・


語り手を変える=文体を変える

という手法を使った故に、何となく繋がっているはずの話がバラけた印象を受け、そして同時に読みにくさを覚えてしまったのが、誤算だったのではないでしょうか。

この感覚は個人のものであり、決して批判をしたいわけではありません。
何度も言うようですが、好きな作家ですからね!

けれど、せっかく個性豊かな下宿先のキャラクター達を十分に活かせていないまま終わってしまった気がしてなりませんでした。

また、島本さんお得意の性のトラウマ系の話もやっぱり盛り込まれているんだけど、どうしても大家である千鶴と晴雨の関係には理解が出来なかったんです。

まだ、千鶴と同じ過去を経験している椿が、女の子と付き合っているという選択をしたことのほうが理解できる。

千鶴と晴雨、椿の話が結構重たかっただけに、
やっぱり大和君の明るさに救われた部分が大きかったです。
そして、そんな大和君に恋してしまった鯨ちゃんの事も好感が持てました。




寮とか下宿とか、青春ドタバタ的な話を想像していたら・・・ちょっと、いや大分違うかもしれないですね。

それでも、こういう形で色々な事に挑戦している島本さんには好感がもてます。

意外ながらとても読みやすくコミカルだった、大和君の語りで一冊書きあげてもらっても良かったくらい。

今後にも期待です。