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魔法使いクラブ

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小学校4年生の結仁は魔法使いになりたいと真剣に願うちょっと変わった女の子。放課後は毎日、幼なじみの史人、葵と魔法使いになるための特訓をしていた。合い言葉は、「3人の願いが叶うまで魔法使いクラブをやめてはいけない」。しかしある日、七夕の短冊にその願いを書いたことがきっかけで一瞬のうちに、クラスの笑い物になってしまう。一人だけ違う世界にはじきとばされたような、さみしくて怖い気持ちに襲われる。8年後、高校3年生になった結仁はまだ、「世界は突然自分を裏切り、はじきだす」という呪いのような記憶にしばられて生きていた―。




青山七恵さんの本です。

タイトルのファンタスティックな感じであるとか、装丁の綺麗さであるとか、そういうイメージとは違った物語でした。

まず、第一章で驚かされたのは、青山さんの文章の巧さ。
青山さんの作品は、島本理生さんが好きな私としては似た雰囲気を持っていることもあって、かなり好感を持っているのだけど、読むたびにどんどん上手くなっていっているのが分かります。

いつもであれば、大学生や20代前半の社会人であるとか、作者である青山さんや、読者である自分と年が近い(大学生とも、だんだん年が近くなくなってきてるけど・・・)主人公の話が多かったと思います。

しかし、今作では初?の小学生が語り手になった物語でした。
・・というと、ちょっと語弊があるかもしれません。
第二章では、主人公は中学生になり、第三章では高校生になるのですが、いずれにしても今までの青山さんの作品ではいなかった年齢層の主人公なのではないでしょうか。

辻村深月さんが描く、小学生の主人公のように。
温かい眼差しで描かれるこの感じ。
とてもとても丁寧で、上手いです。

そして、何が巧みかって・・・女子ならではの友達付き合いの複雑さ、面倒くささ。
たった一度の喧嘩が、自分の気持ちに素直に行動したその行動が、たった一度の過ちや行いで、一瞬にして人間関係は反転してしまう。

「そうそうそう!ほんっとに小中学校の頃の友人関係は面倒くさいんだよね!」と何度もうなずきながら読みつつ、周囲に合わせる事もなく、一人でも平気なふりして何処か冷めた目線で物事を斜めから見ているような女の子が主人公なのです。




「魔女になりたい」

と短冊にお願いごとを書いた日から、今まで仲が良かった学校一可愛い友達に、突然距離を置かれた結仁。

それでも、幼馴染の葵、史人と、毎日登下校を共にしながら魔法使いになるべく三人だけの集会を開いていた。

考えた呪文を唱えながら、葵の買っている犬の具合がよくなることを一心に祈った。すると、その願いが叶って――

三人は約束をする。三人それぞれの願いごとが叶うまでは、魔法使いクラブをやめてはいけない――と。


それから中学生になり、いじめられっ子だった史人が女の子からモテるようになり、陸上部に入った葵は部活の先輩を好きになる。
結仁は、小学校の頃から気になっていた伊田君への感情が、葵が先輩に感じる「好き」とは違うようだと思っている――

些細な事から喧嘩をし、三人が声を交わす事もなくなり――高校生になった結仁は、自宅を出て男の家で暮らしている・・・




第一章の感じからは、タイトル通りの温かい展開を予想します。
読み進めていく限りでは、まだ世間の厳しさや冷たさを知らないが故の無垢な主人公が、家庭崩壊への結末の始まりすら気づいていないという様は第二章、第三章と読んでいくにつれて、明確な悲しみを伴って読者に迫ってきます。

無垢で何にも疑うことを知らなかった幼かった少女時代を越え、だんだんと世間を知っていくにつれて達観していく結仁の変貌――とりわけ、第三章の姿はとても悲しく思いました。


女というのは、落ちていく時は簡単に落ちていける生き物だと思うのです。
とりわけ、性を簡単に売り物にしていくことを、一度してしまえば落ちていくのは簡単で。

そうなるかならないかの境界線を越えるのは、いつだって呆気ない。


史人の気持ちが、最後の最後で明かされます。
もう、きっと三人であの頃のように過ごすことは出来ないであろう結末は、苦しく、だけどこれが現実なのだと実感させられる・・・

タイトルから想像するような物語ではなかったけれど、思いがけぬ青山さんの意欲作でした。

書き下ろし長編。読み応え十分、読む価値ありの作品です。