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鎮火報

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「熱い消防馬鹿なんか真っ平御免」と言い放つ、二十歳の新米消防士・大山雄大。だが、外国人アパートを狙う連続放火事件の消火にあたったことを境に少しずつ変化が起こる。真相に迫るうちに気づかされるのは、選んだ道の正義と誇り、そして消防士だった亡き父の思い。一人の消防士の成長を描いた傑作長編。




日明恩(たちもり めぐみ)さんの本です。

本屋さんで見かけて気になっていた作家さん。
メフィスト賞受賞作家でした。

メフィスト賞といえば、辻村深月さんや小路幸也さんなどお気に入りの作家も多いわけですが、苦手な作家も逆にいたりして、個性溢れるバラエティに富んだ作家が多い賞というイメージがあります。

さて日明さんはどうだろう?
と思って恐る恐る読んでみましたが・・・

「あ、結構好きかも」

という感じでした。

主人公・雄大(20歳の若者)の一人称で展開される物語ですが、この今時風の軽さは石田衣良さんの池袋ウエストゲートパークに少しばかり似ている感じです。
あの語りが好きという人なら、難なく読めちゃうと思います。


この話がどういう話なのかを一切知らずに借りたのですが、消防士の話でした。

消防士の主人公は、早々に事務方に異動して日勤(9時―5時)の勤務をしたいと思っている今時の若者。
消防士だった父は、勤務時間外にまで人助けをしていたうえ、挙句に殉職した。

父が助けた仁藤とは、幼い頃はそれこそ兄弟のように慕っていたけれど、お互いに消防隊員となった今は口を開けば罵りあうような犬猿の仲になっている。


ある日、火災が起こり出動した雄大は、立て続けに起こる不審な火災に疑問を持ち始める。

不法入国の外国人、入管の小坂、警察官の志村。

不法入国の外国人労働者と、雇用する日本人。
犯罪と知りながらもそれを犯してしまうこと。不法に入国しつつも、身を粉にして働き、少しでも多くのお金を母国に持ち帰りたいと願う外国人労働者達―

知っているようで知らなかった日本人が目をそむけていた問題を描いています。


その話がまず一つの核となっていて、その後は雄大の気持ちの変化や仁藤との関係の修復などが描かれます。

メインは入管の小坂との話なので、その話が終わった後もまだ続くんだ・・という感じは受けたものの、中だるみ感はあまりありません。

それは、小説では圧倒的に少ない消防士を主人公にすえた話ということもあって、知らなかった事を沢山知ることが出来たという満足感でしょうか。


消化活動で使った水の、水道代がしっかりと消防署に請求が来る、だとか。
消防車の「カンカン」という音は、鎮火したよという合図なのだとか(これは知らない私が馬鹿なんでしょうか?)。
勤務時間中に食糧などを買いに行ったりしてはいけない、だとか。

消防士は、人を助けて当たり前と思っていなかったとはいい切れません。
だってそういう仕事なんだから、と心のどこかで思っていた自分がいます。

だけど、身も知らぬ他人のために自分だって死んでしまう可能性のある火事現場に入っていくのです。
よく考えてみれば、それっていくら仕事の為とは言えども・・・かなり過酷ですよね。

常識や、当たり前だと思っていた消防士の世界。

知らなかった事を知る事が出来たし、考えを改めなければと思うきっかけになった作品もでありました。

そして、やっぱりこの分厚さ!
文庫サイズ600P越え。

読み応えは十分。

続編もあるようなので、読んでみたいと思います。