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チェーン・ポイズン

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個性のない会社に通い、個性のない仕事をして、ありふれた失敗をする。誰にでも代わりの務まる歯車のような日々。若くも、綺麗でもなく、何の取り柄もない自分に、興味を抱く男性などいないだろう。いつしか結婚も諦めてしまった。簡単に想像できる定年までの生活は、絶望的な未来そのものだった。
 死への憧れを募らせる孤独な女性にかけられた、謎の人物からのささやき。
 「本当に死ぬ気なら、1年待ちませんか? 1年頑張ったご褒美を差し上げます」女性にとって、それは決して悪い取り引きではないように思われた――。
 そして、著名なバイオリニスト、犯罪被害者の遺族、37歳の女性が相次いで自殺を図った。共通点は毒で死んだこと。その事実を知った週刊誌の記者・原田は、女性が自殺した理由を調べていく――。

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本多孝好さんの書き下ろし最新長編です。

正義のミカタ以来?ですよね。
かなり期待して読みましたが・・期待以上に良かったです!

文庫出たら絶対買いますね。

正義のミカタで、少し作風が変わったと感じた人は多いと思います。
本多さん自身の意図的なものだったのか、それとも進化系がその作風になったのかは分かりませんでした。
でも、そこではっきりと昔の作品の方が良かったという人も現われ始めたのではないでしょうか。

私は正義のミカタの明るい感じ?も割と嫌いではないのですが、今改めて初期作品を読んでみて、ああこの世界観が好きだった人には耐え難いのかもしれない、などと思ったのです。

正義のミカタを発表後、しばし新刊が出るという話もなかったわけですが。ついに発表された今作では、きっと昔からの本多さんファンも、これを初めて読んだという人にも確実に確かな余韻を、満足する読後感を与えただろう事は間違いないと思いました。

それほどに、素晴らしい一作でした。

ミステリ界の新進気鋭の作家、本多孝好として。
また、それだけではない、今作では、生きていくということ、死ぬという事、この世界の不条理さ、そういう様々な角度からその事実を突きつけ、そして最後に希望を与えてくれるのです。

素晴らしい。本当に素晴らしい一作でした。


(ここからはネタバレ)

と、固い感想はさておいて。

すっかり、もうすっかり騙されました。
一年に二百冊も本を読んだくせに、この私の物語の展開を読めない愚かさをどうにかしてくれませんでしょうか。

今回は、生と死というメッセージ性と、特にミステリ色が強い一作となっていたように思います。

冒頭から読者をミスリードさせ、最後の最後で明かされる真実。

スリード一覧(単に私が気付かなかっただけという説もありますが)

①二十歳で自殺をしたという著者と同じ名前を持っている→彼女が原田が追い求めている女性であると思わせる

②スーツ姿の人→男性でもなく、女性でもなく「人」という部分に怪しいと思うべきでした。スーツ姿=男性という図式が出来上がってしまっていた。

③原田が追っていく女性の姿は、もう片方から描かれている女性とは何となくイメージが合わない。だが、女性の周囲の変化によって、そういう風に変化していっただけなのかと思わせる。

かみ合わないと思っていたのは、別人だったからなのですね!

ホスピスのボランティアに参加していたという同じ境遇から、完全に騙されていたけれど、何となく繋がらない感じは、別人だったからなのですね。


・・・ともかく、悦子が死なずに済んだことが私は一番嬉しく思いました。
施設の子供達の未来は、きっと明るいだけじゃないでしょう。
色々な事を考えさせられました。

だけど、簡単に命を捨てないこと、少しでも希望を持って毎日を生きること、一人では気付かなかった温かい他人からの心遣いに気付くことが出来た悦子と、ラストで一瞬だけ繋がる原田と悦子の一場面では、胸がじんとしてしまいました。

本多さん、やっぱり凄い作家です。
オススメです!