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黒冷水

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兄の部屋を偏執的にアサる弟と、罠を仕掛けて執拗に報復する兄。兄弟の果てしない憎しみは、どこから生まれ、どこまでエスカレートしていくのか?出口を失い暴走する憎悪の「黒冷水」を、スピード感溢れる文体で描ききり、選考委員を驚愕させた、恐るべき一七歳による第四〇回文藝賞受賞作。

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前回「走ル」のサイン本を買った、羽田圭介さんの本です。
さんとか言っても、この作家は私より年下なのですが。1985年生まれだから、私より2つ下ですよ!
ってことは、まだ今年23歳かよ!・・若っ!

さて、文藝賞受賞作でありデビュー作でもある今作。

前回読んだ「走ル」では、まるで自分探しの若者の如く自転車で北上していく高校生の姿を爽やかに描いていた羽田さん。

デビュー作は・・
一言で言って、

凄すぎる。

この凄いには二種類の意味が含まれます。
まず、最年少の17歳で同文芸賞を受賞した作家と言えば、綿矢りささんが有名ですが、同じくこの羽田さんも17歳で同賞を受賞しています。

綿矢さんの「インストール」は、非常に読みやすくしかも女子高生と小学生が、風俗チャットで大もうけ、なんていう内容の割には、なかなかあっさりとした読み口で私は結構好きだったのです。

しかし・・この羽田さんの本作の何が凄いって・・

そりゃあ、もう。第一に内容です。
話としては、兄の部屋を執拗にあさる弟と、それに陰湿な方法で報復する兄という、ある意味「兄弟喧嘩」の話なのですが、喧嘩は喧嘩でもその陰湿さと言ったら・・読んでいて胸糞悪い気持ちになる程です。

物語の舞台は、ほとんどが家。

兄がいない時をチェックし、部屋に侵入して執拗に机の中から棚の中・・ありとあらゆる場所をあさり、また元通りに戻す事を怠らない弟は、自分の完璧さに酔いしれている。
しかし、そんな弟のあさりの事実を見抜いている兄は、陰湿な報復を返す―

実の兄弟でありながら、殺意を抱く程にお互いを憎む・・
異常と思えるほどのその行動の詳細を、ひたすらに描いている今作。

私も確かに、中学3年の頃から、つい2年位前まで妹と冷戦状態に陥っていましたが、殺意までは抱きませんでしたね。
この物語は、兄が弟に精神的・身体的ダメージを与えるために陰湿な攻撃をしかけていたり、弟が兄に対して完璧なる憎悪を抱いていたり・・ととにかく黒いのであります。

子どもの頃は、兄や妹の部屋に勝手に侵入して、確かに引き出しをあけたり勝手に漫画を読んだりもしていたけれど、流石に日記は読まなかったですよ・・それを読んでしまったら最後の砦が壊されちゃうっていうか。
プライバシーの領域でしたしね・・


何が凄いのか、の第二はこの果てしなき「兄弟冷戦状態」だけを描いている割には、相当な重みのある内容だなあという事。

内容というか、綿矢さんは比較的軽い感じで書いていた印象があったのですが(というか、文藝賞受賞作家には読みやすいイメージがあった)、この作品はとにかく濃密なのです。

17歳にしては、ここまでの文章を書けるのは凄いなあと、素直に関心してしまう濃密さです。


そして、最後に唐突にやってくる<完>
しかしページをめくると・・・新たな物語のエピソードが瞬時に立ち上がり、別のラストが待っているという作りに脱帽しました。


ただ・・1回読めばいいかな、という内容だと思ったのは私の意見ですが、好き派と嫌い派に顕著に分かれるだろうな、と思われる作品でした。