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冬の旅

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美しく優しい母を、義理の兄である修一郎が陵辱しようとして現場を目撃した行助は、誤って修一郎の腿を刺して少年院に送られる。
母への愛惜の念と義兄への復習を胸に、孤独に満ちた少年院での生活を送る行助を中心に、社会復帰を希う非行少年たちの暖かい友情と苛烈な自己格闘を描き、強い意志と真率な感情、青春の夢と激情を抱いた若い魂にとって非行とは何かを問う力作長編―

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立原正秋さんの本です。

有名な作家さん?
恥ずかしながら、初めて知った作家さんでしたし、今作が初めて読んだ本でした。

この本・・とても古いです。
何せこの本を読むに至ったきっかけは、母のこの言葉がきっかけだったのです。

「昔読んだ本なんだけど、タイトルしか覚えてないんだよね。『冬の旅』っていうんだけど、図書館に置いてなくて。読みたいなあ」

確かに地元の図書館で検索をすると、もはや書庫入れ扱いになっており、相当古いのだろうことが伺えます。
会社の近くの図書館で予約し、手にした本は、歴史を感じさせる紙の焼け具合(笑)
更に600Pのボリュームに驚きながら、母に託しました。

母が読み終え「昔読んだ時とは、主人公に対する気持ちが変わった」という言葉を残し、「読みやすいから読んでみな」と言われたので、早速読んでみました。

白夜行は800Pで4日かかったので、600Pの本作は3日かかりました。

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まず、1970年代に刊行されている(私すら生まれてません!)というのに、古臭さを感じないという事に驚きました。

難点は、言葉遣いが・・何とも古いことだけですかね。
俗語的な言葉遣いが多い。「娑婆」とか、現金は「なま」とか女の子は「あたい」っていうし(笑)

あとは、時代的にお金の違いが大きいくらいかな。
昔のお金の価値なので、一ヶ月の給料が何万円・・とかいう描写があって、初めて「ああ、昔の話なのだな」と気付かされる位で、その他は普通に読んでいる限り何故だか古臭いとは思わないのが一番不思議でした。

義理の兄・修一郎が母を襲おうとした場面を見てしまった主人公の行助。
義兄が持ち出した刃物を取り上げたものの、誤って義兄を刺してしまい少年院に送られることに。

義兄への復讐のため、真実を伏せる決意を固めた行助は、少年院の中では異質の誠によく出来た少年だった。
少年院の中で出会った安という親友や仲間達と、安の妻である厚子との出会い。
熱くならず、冷静に耐え忍んだ行助はやがて少年院を出ることになった。

対して罪の意識のない修一郎は、父に家を出て行くように言われ祖父母の家に住みながら、分け与えられる金で遊び回っていた。
行助に対する怒り、父との亀裂の入った関係に苛立ち、次々と問題を起こすのだが、祖父の力で綺麗に隠滅させられてしまうので修一郎には何も損はなかった。

しかし、父が修一郎に対する軽蔑の態度や少年院に入っても変わらない行助の態度・・何もかもに苛立ちを募らせた修一郎はついに父、行助、母を殺そうと企てる・・

そして、父を刺した修一郎に、行助は今度は悪意を持って修一郎を再び刺したのだった。

再び少年院に入る事になった行助は―-

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「可愛そうな主人公の話」だと思っていたので、読んでいて全くそう感じないことに一番拍子抜けしてしまいました。

主人公は、何処までもしたたかで、たくましい。
義兄に対する復讐心の強さが嫌でも分かるし、実際義兄を苦しめるという点では復讐が成功しているのだ。

それにしても、東野さんの「手紙」を読んだせいか、少年院だからなの?
それとも時代のせいなのか?

やけに周囲の人間が理解のある人ばかりだなというのが印象的でした。
普通だったら、少年院あがりの人間には距離を持って接したりする人のが多そうなものだけど。

それだけ行助という人間が、犯罪を犯すようには思えないと信頼されていたというのも理由かもしれませんが。

結局最後、行助は死んでしまったのでしょうか?
終わり方が曖昧なので、色々な結末を想像してしまいました。

ああ、でも。
安がまさかあんな風に最後を遂げてしまうとは・・一番これが悲しかったです。
あと、義兄には最後まで何の罰も与えられないのにはムカムカしますね!
コイツのひん曲がった根性は、叩きなおさなければ直らないでしょうから。