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ランナー

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長距離走者として将来を嘱望された高校一年生の加納碧李は、複雑な境遇の妹を案じ、陸上部を退部することを決意した。だがそれは、たった一度レースに負けただけで走ることが恐怖となってしまった自分への言い訳だった。走ることから、逃げた。逃げたままでは前に進めない。碧李は、再びスタートラインを目指そうとする―

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あさのあつこさんの本です。

予約していて、ようやく手元にきました。
そして今日は先日予約していたとあるミステリ作家の覆面だという山白朝子さんの本が手元にきました。
明日読みますよ~。

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さて、今回は野球ではなく陸上で長距離走者であった主人公の碧李(あおい)が、たった一度のレースに負けたことにより、走ることをやめてしまったというところから物語が始まります。

あおいっていうから、てっきり女の子が主人公だと思っていたのですが、16歳の少年でした。

しかも、今までのあさのさんの描く少年とはまた違った大人びているけれど脆い・・だけど、驚く程芯は強くて優しい・・不思議な魅力を持った少年です。


ランナーというタイトルから、風が強く吹いている一瞬の風になれのようなスポ根小説を思い起こしてしまったのですが・・

これは、陸上の話じゃないと私は思います。

というより、あさのさんは野球少年を描いても、陸上をする少年を描いても・・驚く程その描写が少ない気がしませんか?

私はあさのさんの、人と人との繋がりというか、人間関係の描き方(上手く言えないけど)が凄く好きなのです。

この物語は、陸上で挫折した少年の話ではあるのだけれど、再び走る事を決意した前向きな話・・だなんて一言で片付けて欲しくないのです。

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碧李には、幼い妹がいる。

離婚した父の弟夫婦の子供である、杏樹だ。

幼く、愛らしい杏樹の両親は、事故で唐突にこの世から消えてしまった。
その事故の間接的な原因は、母だった。

母は自分を責め、夫と離婚し自分とは血の繋がりはないにも関わらず、杏樹を引き取ることにした。


働く母は、気丈にふるまっている。
自分は強いと周囲の人間に思われるべく、無理をしているようにも見える。

もっぱら、幼い妹の面倒を見ることになる碧李は、ある日妹の体にうっ血した傷跡がいくつもあることを目撃する。

嫌な予感がかすめる。

試合前日、部活の仲間達の誘いも断り足早に帰宅した碧李の前に広がる光景・・・

母は、杏樹に虐待をしていたのだ-

その光景は、鮮烈で翌日の試合に大敗し・・妹を守る為、母の為・・そう自分に言い聞かせて、走ることから逃げるように陸上部を辞めてしまう。

本当は、走ることが怖くなったのだ・・
しかしそんな自分から見てみぬ振りをするように、杏樹の為、幼い妹を守ると強く思いながら、逃げてしまう碧李だったのだが・・・

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陸上の話、というより家族の崩壊から再生への物語と言ったほうがいいのかもしれません。

杏樹がとても愛らしく描かれているので、時折見せるおびえた表情、何気なく書いた不気味な絵、母に払われた手、そして目の前で大声で怒鳴りあう兄と友人の姿にパニックになり、言葉をなくしてしまう・・・
という結構生々しい現実が描かれていて、胸がきりきりと痛みます。


しかし、母は母で、自分はたとえ血が繋がっていないとしても娘を愛しているのだと思いながらも、愛人の元へと行ってしまった夫に似ている娘に手をあげてしまう・・


何とも痛々しくて、けれども碧李が再び走る事を決めた時、少しばかりこの家族にも光が見えてきたかのような、そんな終わり方なのは救われます。

ただ、これは序章だなあと。

今度は長編でじっくり碧李自身の成長を描いて欲しいかも。
なんて思いました。


前回の晩夏のプレイボールよりは、読後感にインパクトがありました。

これで139冊目であります。
明日は山白朝子さんを読みますが・・・それでもあと年内10冊って・・!

無理!