No-music.No-life

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BAD BYE

ああ、アイツを見ているといい加減毎日うんざりする。

この学校に入学してから、一日に何度も目にする光景。
学校一の美人(らしい)と言われている毒田花子の周囲では、もてはやす者、憧れる者、興味本位に騒ぎ立てる者と様々な人間が存在する。

中学までは、飛びぬけた美人というような女子など存在しなかった俺にとっては、その光景は異常だった。
けれど、俺には関係ない。

クールに、何事にも熱くならずに生きる。
そんな風な生き方が俺には合っていたし、第一ああいう女は普通もてはやされてつけあがるものだろうに、あの毒田と来たらそんなところが全くない。

はっきり言う。
卒がなさ過ぎるのだ。
だからこそ、胡散臭い。

ああいう女は、どうにも好きになれない。

まあ俺には関係ない。
関わらずに生きていけばいい。

そう思っていたのに、2年のクラス替えで俺はあの女と同じクラスになってしまった。
だから毎日、俺は苛立っていた。

「おい福原、あの女どうにかしろよ」

出席番号順の席順で、後ろの席に座る福原に話かける。
福原の右隣の席にいる毒田の周りには、男女問わず様々な人間が取り囲んでいたので、俺はあえてアイツに聞こえるような大声で言ってやる。

よりにもよって、席が近くうざったい光景をすぐ近くで見る羽目になる俺の身にもなってほしい。
ああ、苛々する。

「何で俺に言うわけ?本人に言えばいいじゃないかよ」

福原は、美人とかいう名前の癖にはっきり言って、不細工だ。
今もその不細工な顔をゆがめて迷惑そうに言い返してきた。

「だってお前、最近アイツと結構喋ってるじゃねえかよ」

負けじと言い返してみると、福原は肩をすくめて黙り込んだ。

何故かクラス一の不細工の福原と、学校一の美人(らしい)毒田という凸凹コンビが、最近よく一緒に帰っているだとか、仲の良さそうに喋っているだとか、そういう噂が俺の耳にすら入ってくる。

黙りこくっている福原に、俺は続けて言った。

「俺はアイツとは関わりたくないし、福原はアイツと仲が良いだろ?いいじゃねえか、言っておいてくれよ」

そうして、大袈裟に俺は肩をすくめてみせた。

福原はその不細工な面を複雑にゆがませて俺を見る。
そうこうしているうちに、担任が教室に入ってきて、クラスメイト達が一斉に自分の席へと戻る。
ちらりと右斜め後ろのアイツの席を見ると、毒田花子は正面を見据えながらそのピンと伸ばした背筋を見せ付けるように座っているのだった。


関わろうとも思っていなかったので、関わることのないまま時は過ぎていく。

「福原は何処の大学受けんの?」

高校3年。
受験シーズン真っ只中。

毒田とは関わりなどなかったが、何故か福原とは未だにつるんでいる。
クラス替え当時には不細工なだけだと思っていた男だったが、そうでもなかったからだ。
福原の冴えなかった見た目は、去年に比べると陰を潜め大分良い方に変わっていた。
運動も勉強も1年の頃にはパッとしなかったと思われるのに(成績上位表に名前を見たことなどなかった)、今や毒田に追いつかんとしているかのように何でも出来る男になっていた。

「俺?毒田と同じとこ」

テキストに目を通していた福原は、一度俺のほうに目を向けてこともなげにそんな事を言うのだ。

途端に、「げ」という声が出て、俺は顔をしかめる。

「お前、いつからあいつに洗脳されるようになっちゃったの?大学行ってまでアイツと一緒にいて、何が楽しいわけ?」

再びテキストから顔を上げ、福原は言うのだ。

「洗脳というより、俺は変わるきっかけを与えられたんだよ。毒田に。」

驚くほどきっぱりとした福原の口調に、俺は少しばかり驚いた。
コイツは確かに変わった。
あの頃の自信のない不細工だった男の面影は今や全くないのだから。

「きっかけ、ねえ・・」

そうして、クラスの女子に勉強を教えているらしい毒田の姿にちらりと視線を投げかける。
どうでもいいけど、気付けば俺はアイツを見ている気がする。
気のせいだろうが。


そうして、俺は適当な大学に進学が決まり、あの難関の大学にあっさりと毒田と福原は合格したりして卒業式がやってきた。

高校の卒業式でも、俺はやはり泣くこともない。

冷静に、熱くならない。
それが俺のポリシーだし、高校には何の思い入れもない。
だから泣けない。

「福原、見ろよこれ。」

俺は見事に全部剥ぎ取られた学ランのボタンを福原に見せ付ける。

「お前ってもてるんだな」

酷く冷静に福原は俺を見やり、すぐに視線をそらした。

「何だよお前、綺麗にボタンが残ってるじゃねえかよ」

俺は反撃するかのように言い返す。
福原の学ランには、綺麗にボタンが全て残っていたからだ。

「いいんだよ、俺は自分がどの程度かって分かってるつもりだから」

丁度福原がそう言ったと同時だっただろうか。

「福原君は、自分を卑下しすぎなんだよ」

澄んだはっきりとした口調でそれを否定する声がした。
俺は思い切り顔をしかめて声のする方を見た。

背筋を伸ばし、卒業証書と沢山の花束を抱えた毒田がそこにいた。

「第二ボタン、私がもらっても良い?」

そうして、片手に抱えていたものを全て集約し、福原に向かって手を差し出す。

「別にいいけど。何に使うの?こんなの」

福原は穏やかな表情で毒田に問いかける。

「高校時代に同志に出会えた記念に」

目の前で俺を完全に無視して繰り広げられるやりとりに、俺は大きく咳払いをしてやる。

「ああ、いたんだ。」

そうして、多分初めて俺と毒田は対峙する。

「最初っからいたけど」

俺は多分物凄い眉間にしわを寄せながら話をする。

「そうなんだ、気付かなかった。」

ニヤリと笑う目の前の女は、あのそつのない毒田なのか?
内心戸惑いながら俺は反抗する。

「俺は福原と喋ってたんだけど。いきなり入ってきたのはお前だろ」

しかめ面の俺。不適に笑う毒田。

「もう、きっと会わないだろうから私、最後にあなたに言いたかったことがある」

大きな瞳、色白の肌、栗色のストレートヘアー。背筋をピンと伸ばし、凛とした姿。
これは、あの毒田なのか?
そつがないはずの、あの・・

俺は戸惑う。
美人(らしい)で、男女問わず人気があって、性格も良くて、勉強も運動も何でも出来る女。
俺の大嫌いな女が、俺に向けたはなむけの言葉。

「私、あなたのこと、別に嫌いじゃなかったけど、あなたは私のこと嫌いだったでしょう?あんなにはっきりと嫌いって言われたの、久しぶりだった。だからもしかしたら、あなたとも仲良くなれるんじゃないかと思ってたのに、もう卒業なんて残念」

・・訳が分からない。
なのに沸きあがるこの感情は何だろう。

はがゆいような、こそばゆいような、この膨らむ気持ちは何だろう。

「俺は、お前が大嫌いだった」

けれど、口をついて出てきた台詞はそんなものだ。
突然に湧き上がる気持ちには、咄嗟に対応できない。

「そう、残念。」

全然残念じゃなさそうに毒田は言って、くるりとセーラー服を翻して卒業生たちの輪の中に戻っていった。

「何だよ、あいつ。超うぜぇ」

そう呟きつつも、不思議な高揚感に満たされていた。

「なあお前さ。本当は毒田と、ずっと話したかったんじゃないの?顔、真っ赤だけど」

福原が隣で笑いながら何か言ってる。

俺はそれを無視して、毒田が走り去った方向をじっと見つめる。

ああ、俺は。
ずっとアイツと話してみたかったのか。

でももう遅い。

俺は明日から、アイツとは別々の道を行く。

最悪の別れ。
最初で最後の・・

ああこれに名前をつけるなら・・
BAD BYE。

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脈絡なく書いたら、何が言いたいのか意味不明なものに。
すいません・・