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バスジャック

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バスジャックブームの昨今、人々はこの新種の娯楽を求めて高速バスに殺到するが…。表題作他、奇想あり抒情ありの多彩な筆致で描いた全7編を収録。

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となり町戦争三崎亜記さんの本です。

「となり町~」以来、三崎さんの本はご無沙汰でした。
この衝撃のデビュー作は、突拍子もない設定でありながら、確かに読みやすいといえば読みやすい話でした。

が、しかし・・いかんせん戦争をしている生々しさというものがなく、何だか不完全燃焼な読後感だったことで、他の作品を読んでみようとは思えなかったのです。

「となり町~」以外では、アンソロジー小説の中で1作読みましたが、それもまた戦争系の話。

いや、ほんと普通の人と物事を捉える視点が違う作家のようで、それは確かに味のある作品なんですが・・いい加減戦争系から離れてみてはどうなんだ?と憤りを覚えたりもしていたわけです。

で、あまり期待もせずに借りた一冊。


三崎さんすいません、結構面白かったです。



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二階扉をつけてください
しあわせな光
二人の記憶
バスジャック
雨降る夜に
動物園
送りの夏

短い話は、ほんの数ページのものもあります。

この作家は、本当に凄いなと感心してしまうのが・・

ここまで多ジャンルの話を、そして普通とはずれた日常の話を・・さらりと書けてしまう所ではないでしょうか?

例えば、「二階扉を~」は何が怖いってまず、タイトルが怖い。
絶対何かある、何かがある・・と恐る恐るページをめくるのだが・・予想通り最後に事が起こってしまうのだ。
起こって欲しくないと予測していることが、実際に起こってしまうという期待通りの結果。

タイトルのおどろおどろしさと、何の用途なのかが全く分からない'二階扉’の設置を求める回覧板が届く。

ろくに回覧板も読まずにいた主人公を襲う悲劇-


普通の幸せな家庭、ちょっとわずらわしい近所付き合い・・という前提で読んでいると、いい意味で後半で期待を裏切られる。
前半部では、変な所なんて二階扉の設置業者位のものなのに。

恐れ入りました!

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が、そんな話も書いたと思いきや二人の記憶みたいに、少しだけ切ない恋物語を書いてしまう。

今度こそ、普通のカップルの話だろう?と思っていると・・
また違う。
がそれは、非現実ではない。

一週間ぶりに会ったはずの彼女とレストランに行こうとすると「昨日も行ったのに」と言われる。
行ったこともない架空の旅行の話をすれば、「あの時は・・」とさも現実に旅行してきたかのように話す彼女。
また、彼女にあげたはずの指輪ではない指輪が指にはめられていたり・・

少しずつお互いの記憶にずれが生じていることに気付く。
しかもそれは、彼女の記憶だけが間違っているわけではないことにも気付いてしまう。

しかし二人の共通の記憶は、ただ一つ残されていた。
それは、二人が出会った映画館・・・


微妙な記憶のずれを、気持ちが離れているのでは?と思ってしまう彼女も健気で可愛く、決して同じ記憶ではなくても、彼女を愛しく思う彼の気持ちが描かれている。

少しだけ切なく、優しい物語。

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そして、最後の送りの夏

今度こそ普通の話であろう・・と思って読んでいると、やっぱり普通ではない。

母の元を尋ねるべく家出をしてきた小学6年の女の子。

偶然に出会った老夫婦・・そのおじいさんが連れていた車椅子の夫人は、どうみても生きているようには見えない。

静かに微笑を浮かべ、しかし微動だにしない。
人形?
そう思いつつも、刻まれたしわや顔立ちはまるで人間のようだ。


そして、母の元に辿り着くと・・そこには、母と同じく人形のような男性。また、若い男性と人形のような若い女性。また一組の夫婦の子供も人形のように静かに微笑んでいる。

一体これは何なのか?

疑問に思いつつも、不思議な空間でその人形のような人間と共にしばし生活を共にすることになるのだが・・


ここで今までのパターンと少し違うのは、主人公以外の周りの人間にもこの人形のような人間が異様なものとして写っていることだ。

=
死を受け入れられない

だからこそ、こういう愛の形があるのかもしれない・・と少しだけ切なくなる結末。

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表題作のバスジャックといい動物園といい、想像していた話とは一味も二味も違う仕上がりになっているので、読んでいて飽きません。

意外と楽しめます。
期待しても損はしないはずです。