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風が強く吹いている

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箱根の山は蜃気楼ではない。襷をつないで上っていける、俺たちなら。才能に恵まれ、走ることを愛しながら走ることから見放されかけていた清瀬灰二と蔵原走。奇跡のような出会いから、二人は無謀にも陸上とかけ離れていた者と箱根駅伝に挑む。たった十人で。それぞれの「頂点」をめざして…。

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三浦しをんさんの本です。

多分アンソロジーでは読んだことがあった気がしますが、ちゃんとした丸ごと一冊を読むのは初。

るいさんがお薦めしていたので、かなり気になっていた本。
本屋大賞にもノミネートされていた気がするのですが・・何故か普通においてある地元の図書館・・。

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昨今はやり?のスポ根小説

だなんてくくりで語っちゃいけない。

本屋大賞を受賞した、佐藤多佳子さんの一瞬の風になれは「陸上=短距離」だったのだけれど、三浦さんの今作は「駅伝=長距離」という違いがあります。

で、「一瞬の~」では親友である連と新二は仲間でもあり、最大のライバルでもあるという関係。
でも「風が~」は違う。
10人が一丸となり、箱根駅伝という大きな目標に向かって仲間が力を合わせていかなければ達成できない。

そもそも、設定がありえない。

走る事を前提に育てられてきたハイジ。
しかし突然の膝の故障。

そんな中で、弱小陸上部しか存在しない大学に入学。
とうとう4年目にして、走という最高の逸材に出会った。

ボロアパートに強引に入居を進め、住人が10人に揃った所で切り出したのは・・




というとんでもない提案だった。


高校時代エースでありながらも、不祥事を起こし陸上から追放された走。
同じく陸上経験を持つ当のハイジでさえ、膝は完治していない。


サッカー経験者の双子、ジョージジョータ
過去に陸上経験を持つが今や煙草の吸いすぎてすっかり体もなまってしまった大学5年のニコチャン
理工学部の国費留学生の黒人・ムサ
漫画が大好きで、部屋中が漫画だらけになっている王子
司法試験に合格済の大学4年生・剣道経験を持つユキ
クイズ番組が大好きな4年生のキング
家族を大事にしている神童

他の住人である8人に至っては、ほぼ走ることに素人である。

しかし、ハイジは彼らに走る素質があると言い切り彼らの無謀な挑戦が始まった。

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それぞれの性格・素質に見合うトレーニング方法を完璧に指示するハイジ。

そして陸上経験者だからこそ無謀な挑戦だと高をくくっていた走も驚くほど、それぞれが隠されていた素質を開花させていく。

予選会・数々の大会で記録を出し・・ついに箱根駅伝の出場が決まる。

そして・・・!

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いや、もう一言・・


「面白かった!そして、何度もうるっときてしまった!」



と。

ハイジの徹底的なコーチっぷりと、走がどんどん記録を伸ばし走ることに楽しみを見出す様は読んでいても素晴らしく、また彼らの一言一言が重く響いて読み手に感動を与えてくれるのです。

あらすじを見た瞬間、「どうせ初めての出場とかいって、優勝とかしちゃうんでしょ~。ありえねえよ!」とか思ってなめていたら・・・

とりあえず、そういう意味では期待してはいけない結末です。

でも、確かにそれ以上に読み手に伝わるものがあると私は思いました。

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走ることだってままならないのに、駅伝なんて!と思っていたそれぞれの登場人物のドラマ。
襷を繋ぐ、ただそれだけの永遠にも思える箱根の山。


私はスポーツが苦手で、ましてや陸上なんて知識が全くない。
更には正月の箱根駅伝にも興味なんてなかったのです。

親戚が必ずと言っていいほど見ていて、一喜一憂する様を「何が面白いんだろう?」だなんて見ていたんです。

今作を読んで、分からないルールとかが沢山ありました。

だけど、どんどん続きが気になって、平坦に見える道ですら、選手にとっては坂道を登るかのように辛い険しい道であること、選手それぞれの気持ちなどを垣間見た気がするのです。

まあ、実際走る人にとってはこんなもんじゃないのだろうけれども。


しかし、続きが気になって気になって大分読んだだろう・・と思っても、なかなか読み終わらず3日も要しました。

でも終わってしまって悲しくなったりもする、不思議な一冊です。

今年読んだ中で、一番のヒットかもしれないなあ。
それくらいに、お薦めです。

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余談1

結局はなちゃんは、双子のどちらを、はたまた走を選んだのでしょうか?
4年後の姿もあまり変わらない感じだったので、結局誰も選んでいないのでしょうかね?笑

余談2

表紙にそれぞれの登場人物の絵が書かれているのが良いですよね。
さりげなく書かれている挿絵も雰囲気が出ていていい感じ。