No-music.No-life

ヤフーblogから移行しました。

彼らは何故歌うのか?TOY 「雨の街」

イメージ 1

聴いた瞬間に浮かんでくるのは、どんな風景なのだろう?
緩やかに上昇するイメージ。青空の下、自転車のペダルを漕ぎながら・・何処までも行けるかのような。
TOYというバンドの音を聴くと、決まってそんなイメージが目の前に広がるのだ。

2004年、ボーカル横田浩之(Vo.&Gt.)鬼澤周平(Ba.)を中心に茨城で結成。茨城・つくば、千葉・柏を中心にライブ活動を始め、2004年には森光郎(Dr.)、2005年に坂本佳幸(Gt.)が加わり現在の編成になる。
シングル’’’COLOR’’’がノンプロモーションにも関わらず、新人としては驚異的なヒットを記録したTOYのデビューミニアルバム’’’雨の街’’’が3月7日にリリースされた。
ポップともロックとも言い切れない枠にはまらない独自のサウンド、耳にすっと馴染む心地良さ。その清々しさが着実に彼らのファンを増やしている。

TOYとの出会いは、シングルCOLOR
あの時単純に感じたポップな音のイメージを今作雨の街では見事に覆されてしまった。
いやしかし今回のアルバムにも収録されている風の便り、更にノスタルジーを聴く限り、ポップな印象は受けるのだ。
しかし1曲目のTIME MACHINE雨の街うわのそらでは、哀愁を帯びたロックサウンドという印象も受ける。

私がこうしてレビューを書くにあたり、何度か題材にしてきたジャンル分け不能なアーティストにスムルースというバンドがいるのだが、彼らもまた新作アルバム『百万枚突破!!!』では、またしてもポップな音を全面に押し出しているように感じる。
前作『ドリーミーワームホール辞典』では、ロックな音を色濃く押し出していたのに対し、新作ではまたもやポップな印象を強く受けた。
そしてその内容もまた、着実に前作よりも成長していたのだ。

音のジャンルに捉われ過ぎているのは、きっと私を含めた極小数の人間だけだろう。
彼らにとって、ジャンルがどうこうなど関係ないことなのだ。
良質な音楽を造り出し、私達に届ける事。
それだけが彼らのような音楽を与える側の定めのようなものであろう。

故に、TOYの音のジャンルは何であるか?なんていう疑問は抱くべきものではないのかもしれない。
単純にギターロックというジャンルが好きな私自身も、流行の音を聴く人も、またはジャンルを問わず音楽を聴く人にも・・誰にでもすっと心に響く音を造りだせるのがTOYというバンドなのだと思うのだ。

冒頭のTIME MACHINEから、挑戦的とも思えるサウンドで力強く幕を開ける今作。
独特のリズムで鳴り響くギターの旋律が心地良い。
また、踊るようなベースと紡がれるドラムのビート。そしてボーカル横田の歌声が重なって、一曲目から期待に胸が高鳴ってしまう。

空高く光る星たちは いつもと変わらず 陰を作ってく

まるでこの曲を聴いている私自身がタイムマシーンに乗って、歌詞の世界にタイムスリップしてしまうような、不思議な心地良さに包まれる。

その流れから、シングルCOLORにも収録されていた風の便りへ。
先程までの光り輝く星の世界から、一気に現実に引き戻される。

どこまでも自転車のペダルを漕いでいるような、風を切って走る爽やかなイメージへ。

この曲の爽快感は何なのだろう?どんな事だって出来てしまうのでは?と思えるこの前向きな気持ちは一体・・?

そんなことを考えている間に雨の街うわのそらへ。

窓の外は雨。昼間だというのに薄暗い部屋の中。忘れがたい気持ちの行き場を失ったまま、もどかしさで苛立つ・・
哀愁溢れるサウンドと、淡々としているようで深みのあるバンド全体の音が歌詞の世界を現実味のあるものに変えてしまう。

明日の朝には痛みなど消えてしまえばいいのに 止まったままの時間はいつも 傷跡をなぞる

どうしようもない現実の中、少しの望みを抱き叶わぬ想いにため息をつく。
そんな情景が浮かんでくると、間もなく次の曲ノスタルジーへ。

イントロを聴いて、一瞬ほっとしてしまう曲でもある。先程までの暗く淀んだ外の世界から一転。一気に明るい世界へと情景が変化する。
何処までも優しい音に包まれて、少しずつ再生を始めていく。

予定の無い週末は いつも心躍るのに なんか少し切ないのは 君がぬくもりに触れたから 赤く染まる空へ 消えていった声は さよなら

そして、再び外の風景は雨模様。
だけどこの雨は、重く悲しいものではない。
大地に降り注ぐ、恵の雨。
この大粒の雨と共に、涙も一緒に流れてしまえば良い・・そんな希望を歌う。

本当は切ない歌詞であるはずのこの曲も、こんなにも前向きに響いてくるのはきっとこの柔らかい音色の世界に包まれているからなのだろうか。

もう戻れない日々へと刻まれた記憶には あなたの声もそっと薄れてゆくけど 僕はまだ歌うのかな

まだ歌い続けるの?と誰にでもなく問いかけ、答えの出ないまま最後の一曲’’’ひとりごと’’’へ。

そこでもまた、彼らは歌う事に疑問を投げかける。

どうして僕は歌うの 涙も感情さえも枯れたのに

その答えは、ここでは何も語られない。
ただ、私が感じるのは彼らが「歌う」ことによって、得られるこの充足感なのだ。
それは確かに聴く者に真っ直ぐに響き、力になっていく。

意味の無さが織り成す色彩に染まるから 焦りさえ捨てて 今は風に身をまかせて

COLORに収録されているたそがれスーパーカーで、彼らが歌うように。
私達自身も、今ある現実を受け止め自然に身を任せればいいのではないか。
そしていつの日か彼らが歌う「どうして歌うの?」という疑問の答えが出る日が来るのだろう。
これは私の勝手な想像だが、彼らが歌う事は私達に形の見えない何かを与えてくれるということなのではないだろうか。
その何かの正体など、今は分からないけれど。

運命的に出逢ってしまった彼らの心地良い音。

今はただ、この音に身を任せてみたい。
いつか彼らが何故歌うのか?という明確な答えが見つかるまで、私はずっと彼らを追い続けていきたい。
そして、これからの彼らの成長を見届けたいと強く願うのだ。