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そのままの光

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瀬野、正夫、ヨダカとぼく。大学寮の東十五室はぼくたち4人の居場所だった。寮が取り壊された今、大切な場所を失ったぼくたちに正夫の歌う音のはずれたビートルズが気づかせてくれたのは―。

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関口尚さんの本です。

関口さんの事は、以前記事にもしたプリズムの夏で初めて知ったのですが、この本を書店で見かけて気になっていたのです。
図書館に行ったら置いてあったので、早速借りてきました。

関口さんの作品の中では、最新作のようですね。

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水の中から見た月
東十五室
逆さオリオン
卑怯者の歌
北京の十日間
万引きランナー
南天のカノーブス

7つの短編からなる、それぞれの物語。

水の中から見た月

主人公の宮田は中学時代にやっていた野球を、高校になってもやってみようかなと思ったのがそもそものの始まりだった。

学業のレベルもぱっとしない、普通高校
野球部のレベルもぱっとしない上、冴えない暴君というものが存在した。

三年生の平という先輩だった。
五番・サードというレギュラーだったのにも関わらず、その実力はどうみたってなかった。

そんな平は、ことあるごとに尻に向かってスイングしたり、何かと後輩にいちゃもんをつけたがる厄介な人間だった。
部室に後輩を呼び出しては、いちゃもんをつけて部に不協和音をもたらす先輩。

そんな平に一番呼び出されていたのが、角だった。

角は部を辞めたいと宮田にもらす。
執拗ないびりという指導を受け続け、とうとう根をあげて逃げ出そうとする角に、夏まで待てば先輩は引退する、と説得し何とかその時期を迎えたのだ。

がしかし、予想に反して平は部からいなくなることはなかった。

そんなある日だった。

一年生で、ピッチャー志望の香取という男が入部したいと突然部に現れたのだ。
三年引退の時期に合わせたかのように入部希望をしてきた香取を、平はやはり気に入らないと見えて、
「四百メートルトラックを五十周走ったら入部させてやる」という条件をつきつけた。

しかし、香取は一時間半ほどで走り終えてしまった。
宮田は最初、そんな香取を面白くなく思っていた。

フォームも完璧、作り上げられた体と、凛としたたたずまい。
どうして今頃野球部に入ろうとしたのだろう?
一つの疑問が浮かぶ。

平たちがいない、ひと時の練習。
その時、あの香取がボールを投げた。

その完璧なフォーム。速球に、宮田を始め部員達は見入っていた。

そして、宮田はその帰り道、香取と一緒に下校する。

「香取って越境?」

越境とは・・他県から高校に通う生徒の通称だ。

「俺が越境だということは、まだ野球部のやつらに言わないで欲しいんだ」

香取の意外な答え。
疑問に思いながらも、宮田はその頼みを引き受ける。

夏合宿。
香取のピッチングの凄さを誰かから聞きつけた平が、勝負を申し出てきたのだ。
キャッチャーは宮田。
速球。
完璧な球。
平は打ち返すことが出来ない。

しかし・・香取の十七球目だった。
振り遅れたバットの先端に、かすかにボールが当たった。
ピッチャーゴロ。
難なく処理されて当然の打球。

しかし・・。香取はグラブで頭を覆うようにして、マウンドに屈みこんだのだった・・。

深く理由は聞けないまま、夜のプールで泳いで見る。
そこで、何気なく宮田が言った言葉。

「プールに潜っても、水の中から月って見えるのかな」

香取は言う。

「無理だな」

と。
そして、事件は起こる。

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ラストが、何とも切なくてやるせない。
なのに、別の形で居場所を見つけた香取はきっと幸せなんだと思う。

友情について、深く考えさせられた話だった。

しかし平が最悪だ。


東十五室

十年前。
大学入学の頃。
築三十年・光熱費や食費を合わせても一万円という格安の寮に入った小笠原。

先輩との上下関係が物凄く厳しく、一年生に至っては人間扱いをされない程だった。
一年が終わると、寮の役員をやらされる。
しかし、これは楽しかった。
上級生との相部屋から、同学年との相部屋に変わるのだ。

東棟一階の端から五部屋目東十五室は、特別な場所だった。

光熱費等の回収を担当する経理部だった小笠原・ヨダカ・正夫・瀬野。

ヨダカはその中でも、とにかく皆と違った雰囲気を持った男だった。痩せていて目はぎょろぎょろして頬はこけている容姿をしていた。
夜更かしをするのがいつものことで、ひっそりとビートルズが部屋の中に響き渡る。
毎日、毎晩のことだ。
「ヘルプ!」をこよなく愛しているのか、いつも十三曲目の「イエスタデイ」が、小笠原にとっての子守唄のようなものだった。

最初は、そのビートルズを毎日聴くヨダカに面食らっていたのに、いつのまにかそれが当たり前になった。
東十五室だけは、のどやかな雰囲気に満ちていた。


寮生達の恐れる門脇が、酔って暴れて部屋にやってくるという情報が入ってきた!
4人はどうにかして逃げようとする。
狙われているのは、正夫だった・・はずだった。
しかし、大きな音を立てながら迫ってくる門脇が叫んでいるのは「小笠原出て来い!」

そう、正夫は罪を小笠原になすりつけたのだ。

怒っている場合ではない。
このままでは助からない。
そこで寝たふりを実行する・・
そして、何とか逃れる事が出来たのだ。
そして皆で笑いあった・・

そして、とある事件が起こる。
事件と呼ぶには大袈裟すぎるかもしれない。
だけれど、ヨダカにとっては大きな事件が・・。

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また嫌な先輩ばっかり!
と、関口さんに何かあったのか?と思えてきた二作目。

ビートルズの旋律が、思い出の曲になっているのがまた切なく。
ラストは少し、ほっとします。


逆さオリオン

創立百周年を迎えた高校。
明治に建てられた校舎は、登録有形文化財に指定され、若干改修された。
その校舎は、文化部を中心とした部室となっている。

杉矢は、文芸部に属していていつも窓からサッカーコートを眺めていた。
先輩ともめて、辞めてしまったサッカー部。

思いに耽っている所は、佐倉がやってきた。

佐倉は、去年までオーストラリアで暮らしていて高校進学と同時に日本に帰国したのだという。
それは母親の意向ということだった。

入部して三ヶ月足らずで、うまくて期待の星でもあったバスケ部を辞め、何故か文芸部に入部してきた佐倉。
先輩後輩構わずに抜群の動きを見せる彼女を、よく思わない部員達と何かがあったのだろう。
部の顧問である先生から、佐倉の指導を任されたのだ。

佐倉の母は、俳句をやっているらしい。
そして、杉矢のおじいちゃんはそこそこ俳人として名の通った人だった。
だからこそ、指導を任されたということもある。

毎日のように、佐倉は俳句を披露した。
季語もめちゃくちゃ、どうしようもない俳句を書いてくることもあった。

「目の前に広がる風景を句にしろ」

という杉矢の言葉を聞いて、それでも佐倉は努力をしてまともな句を作り上げていった。


サッカー部で親しかった大月と歩いていると、佐倉が声をかけてきた。
すると、大月が食いついてきた。

「今度紹介してくれよ」

手足は長く、運動をしていたというのが分かる肉付きのいい体をしている佐倉。
それでいてバスケも上手い。
そんな佐倉を大月は本気で好きになっているらしかった。

そして俳句を100首作ることを条件に、杉矢は佐倉を紹介する約束をする。

佐倉の、めきめきと上達していく俳句の腕。
一日二十首。

その中で、毎日一つは母の句を読むのが気がかりだった。

短夜に帰らぬ母と夢の中
蛍消え母のとまどい残りけり

杉矢は思い切って聞いた。
母とうまくいっていないのか?と。

すると、佐倉の母は父と別れオーストラリアから戻ってきたというのだ。
二人で暮らすために、必死で働いていると。
しかし、それと同時に別れたことを後悔しているのだという。

そして、突然の出来事が起こる。

大月と佐倉のデートを取り持ち、その後大月にどうなったのかと聞こうとした時のことだった。

「佐倉ちゃんがいなくなるってわかってたから、紹介したんだろ?」

状況が掴めない。しかし、大月の怒りは収まらない。
程なく先生が仲裁に入り、ある事実を知らされるのだった。

「佐倉が学校を辞める」

一ヵ月後。
エアメールが届いた。
手紙の末尾には、句を一句添えて。

オリオン座まっ逆さまの夜明け前

どう考えても、あり得ない構図だった。
馬鹿野郎!と怒りをわざとあらわにした。

しかし・・
オーストラリアから見るオリオン座は・・。

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最後が、何とも切ないです。
オリオン座のその構図の謎が、地学の授業で発覚するのですが、その瞬間の杉矢の気持ちを考えたら本当に馬鹿だな・・と泣けてきます。


②に続きます。