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一瞬の風になれ③ -ドン-

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ただ、走る。走る。走る。他のものは何もいらない。この身体とこの走路があればいい「1本、1本、全力だ」。すべてはこのラストのために-

佐藤多佳子さんの「一瞬の風になれ」待望の続編、そして最終巻です。

2年の冬。
ただ黙々とトレーニングに励んでいくメンバー達。
その中でひときわ足と地面の接地について考えながら歩いている神谷新二。
以前のすぐにばててしまう体力のなかった姿と明らかに異なっている一ノ瀬連。

二人とも、インターハイに向けて大会の練習に励んでいた。
もっと早く走りたい!
そしてお互いに高校卒業後も走り続けていきたいと気持ちを確かめ合った。

「新二に負ける」

と言った連。
驚きを隠せない新二。
そう、何時の間にか並んで走ることが出来るかもしれない位置まで新二は上達してきたのだった。

そして3年になった。
陸上部にも、1年生が入部してきた。

その中でひときわ足が速くまた、悪い意味でも目立っているのが、鍵山という小柄な男だった。
中学時代から陸上をしているだけあり、とても早いのだが連を慕い過ぎて一つ上の桃内もそっちのけの態度は、桃内にとっては不快であり、また部員たちの目の前をちょこまかする姿は、反感の元にもなっていた。

しかし、じきリレーメンバーになる鍵山にアクシデントが起こる。
合同合宿の際、はりきり過ぎて足を痛めてしまったのだ!

関東までには直る前提で、今まで通り3年の根岸がリレメンとして走ることになった。
今度は一走だ。
それなのに鍵山は・・足を痛めたショックでプライドがずたずたになり、あろうことに部活にも顔を出さなくなってしまったのだ。

部長として出来る事とはいったいなんだろう?
と新二は考える。
しかし、鍵山が戻る時の為に頑張ってくれている根岸のことや、メンバー・部員たちの事を思うと直接交渉に出たのだった。
必ず大会には来いと。
そして、リレーを見た感想をレポートに提出しろと半分冗談で言ったのだった。

そして地区大会当日。
一本一本、全力で走り関東出場を決めた新二。
勿論、連もだ。
そして、部員たちも続々と県出場を決めていく。

中長距離に出場する新二の思い人、谷口若菜を応援していた新二。
そして何とか関東への切符を手にした谷口は、喜びのあまり新二に抱きついてきた!
その後、あまりにも動転しどうやって帰ったのかも分からないままろくに眠れずに翌日を迎えた。

そしてリレー。
とてもスムースにバトンが回る。
そして、県大会出場を決めた・・

その中でメンバーに生まれた思い。

「このメンバーでも、十分に県で通用出来るのではないか?」

関東までに復帰するという前提の鍵山をいきなり入れて、バトンパスに課題が残るよりは、このまま根岸をメンバーとしてスムースなバトンが出来るチームであった方がいいのでは?

新二は、家に連と桃内を呼び出しその胸の内を告白する。
すると連が言った

「でも、あいつ、かわいそうじゃね?」

その言葉に、ズキっとしたのは新二だけじゃない。桃内もだっただろう。
根岸に聞いてみないことには、結論は出せないということになった。
そして、根岸の考えとは・・?

新二はどんどん早くなっていく。
一つ一つの走りを、問題点を見つけながら体に染み込ませていく。

リレーの練習、マイルの練習、100メートル、200メートルの練習は、これ以上ないというくらいこなしてきた。

そして、関東のマイルの試合が行なわれた。
そこで事件は起こった・・。

果たして、関東を制することが出来るのか?
新二は連に、連は新二に、そして強豪鷲谷の仙波に勝てるのか?
そしてインターハイへの出場を決めるのは誰なのか?!

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終わってしまいました。
毎月刊行というだけでも月一で楽しみがあったので寂しい気持ちで一杯です。

この「一瞬の~」と前日記事にした森絵都さんの「DIVE!!」を同時進行で読んでいる状況だったのですが・・
スポーツって、案外面白い?!
っていうのがスポーツに全く興味のなかった自分の率直な感想です。

水と地上という違いはあっても、わずか何秒という時間で演技をしたり自分の限界に挑戦するという姿はとても眩しく、情景が頭の中に浮かんでくるような錯覚を起こしました。

しかも、自分が走っているとか飛び込みをしているとかじゃなくてとても登場人物たちと近いところにいるような感覚、そんなものを感じずにはいられませんでした。

「一瞬の風になれ」は、陸上という全く無知の世界にのめりこむかのようにページをめくる手が止まらない、そんな物語でした。

個人的に、2巻の後半の要となった新二の兄・健一のその後と、新二の思い人である谷口とはどうなったのか?
が知りたいと思いましたけどね。
連の走りへの気持ちの変化が面白い程変わっていって、そこに新二の成長が絡まって本当に本当に素敵な読後感でした。お薦めです。