No-music.No-life

ヤフーblogから移行しました。

嘘つき。やさしい嘘十話。①

西加奈子 ・・ おはよう
豊島ミホ ・・ この世のすべての不幸から
竹内真  ・・ フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン
光原百合 ・・ 木洩れ陽色の酒
佐藤真由美・・ ダイヤモンドリリー
三崎亜記 ・・ あの空の向こうに
中島たい子・・ やさしい本音
中上紀  ・・ 象の回廊
井上荒野 ・・ きっとね。
華恵   ・・ やさしいうそ

秘密。ありがと。

などのシリーズ最新作です。

豊島ミホさんと光原百合さんは好きな作家で、三崎亜記さんは受賞作だけ読んだことがある、という知識しかなかったですが・・

おはよう

「おはよう。」
という言葉が一番好きだ。
その答は、俺の彼女の中にある。

文学部国文科。
大学4回生。

女だらけの世界で、もてることもなく、コンパにも参加したことがなく・・
ただひたすらに小説を書いていた主人公。

あるきっかけで、朝子と出会う。
しかも、出会った瞬間から、お互いに一目ぼれしていたのだった。

その日のうちに家に転がり込んできた朝子。
そして『フィンガーボールとお姫様とこじき』の話をおもむろに語り出す。
そして、この物語のお姫様のような嘘はつかないで・・
と言った。

それから、二人は喧嘩をすることもなく平穏に時は過ぎていき、朝子が住み着いて何も変わらぬまま、数年の月日が過ぎた。
二人が30になって、浮気をし、その女にふられたりても・・朝子はずっと家に住んでいた。
プロポーズをする、そして朝子は初めて涙を見せる。

優しい「嘘」に包まれた過去を話しながら・・

優しい話でした。
朝子のキャラがずっと掴めずにいたのは、そのせいだったのか?
とラストでほっとしました。
こんな嘘は、涙も出てしまいますね。


この世のすべての不幸から

「醜」い「女」と書いて、「しこめ」という。
ぶすよりも重々しく、呪われているみたいな言葉。
          
僕の妹は、紛れもなくそれだった。
産婆の腕に抱えられた生まれたての妹。
それを見たときの衝撃・・いや「戦慄」。
七つの僕でも、確かに感じた異様な気持ちだった。

「お母さん、もうだめだわ、ごめんね」
母さんの鳴き声。

そう、母は<整形美女>だったのだ!

生まれたばかりの娘が、自分の小さい頃の経験を辿っていかなければならない運命を思って泣いた母。
「あの子を蔵に閉じ込めるのよ。そうしてこの世のすべての不幸から守ってあげるの。幸福は貴方が思いっきり捧げてあげて」

それから母はここからいなくなった。
妹の名前「真希」というありふれた名前だけを残して・・

真希は、出歩けないほどの重度の障害児ということにされ、蔵の中で生活することになった。

父と、母方のおばあちゃんと、僕。
3人と、真希との生活。
成長するにつれ、醜さの増す顔。
真希の顔を見ないように、蔵の中で髪をとかしてあげる。
「かわいい、かわいいね、真希」

そして、おばあちゃんが死に・・
真希の世話係は僕に代わる。
顔が映らないありとあらゆる鏡になるものを削除し、細心の注意を払う。

そして、僕が高校卒業間近・・真希が思春期を迎える頃。
嘘は完璧になった。
と同時に、「普通の男子」ではなくなっていった。
どんな明るく振舞っても、根本では皆とは違っていた。

そしてある日・・


豊島さんの作品が載っているからと購入したこの本です。
今までとはまた違う、(少し「ブルースノウワルツ」を思い出したかな)少し背筋がぞくっとするような話でした。
真希が、家族の誰よりも大人だと感じたラストでした。


フライ・ミー・トゥーザ・ムーン

「俺、月の地主なんだぜ」

初めて会ったとき、ソラくんが言った。
おじいさんに、月の地主である権利書を生まれた時にくれたのだという。
転校を繰り返してきた静香は、冗談だと思いつつもついその話にくいついてしまった。
その日、ソラ君の家に行き、「トーキボ」を見せてもらうことにした。

20歳まであけてはいけないという封筒の中身と、本物と思わしき月の土地の権利書。

二人は、わくわくしながら笑いあうが、また転校をしてしまった静香は、ソラくんに再会するまでに十年近くが経過していたのだった。

十九歳。
友達の彼氏である人が、ソラくんだった。
偶然再会した二人。
そして、ソラ君の元には、未だあの月の権利書があり、20歳を待たずに開封されていた封筒を見つける。

そこにはおじいさんの手紙。
月の地主というのは嘘だったが、不思議と落ち着いているソラ君。

更に10年後。
再びソラ君との接点を持つようになり、あの地主の権利書をくれたおじいさんのところへと行くことになり・・


宇宙の話が、結構長々と書いてあって、それほど興味を持っていない自分には読むのが大変だったところもありました。
でも、最初から最後までずっと温かい気持ちで読める話でした。


木洩れ陽色の酒

とある丘。
そこには、不思議な果実(「マノミ」と言われている)の守り人である初音がいた。
今日も丘を登ってくる人の気配を感じる。
一人の若者が、「マノミ」を求めてやってきた。
妻が瀕死の状態であるという。

マノミとは・・
ここでしか取れない木洩れ陽色の果実が実る。
その果実を三年以上漬け込んだ酒を飲めば、どんな薬師にも治せぬ病がたちどころに治せるという。

しかし、「魔の実」と呼ばれるのにはわけがある。

その酒を飲んだものは、一番に愛している者を完全に忘れてしまう。
命と、大切な記憶をいわば引き換えているといえよう。
    
しかし、忘れるべき相手のことを忘れない場合、がとても厄介なのだ。

先ほどの若い夫婦(妻はたいそう美しかった)は水際と沙斗といった。
沙斗は酒を飲み、よく眠った。
そして水際は、初音を尋ねてきた。

そして、亡き友人、迅火の話をする。
結婚をきっかけにプレゼントされた、異国のペンダント・・
友人を思い出し、悲しませたくないから・・とペンダントをつけなくなる沙斗。
初音に使ってもらえるのなら、無駄にならなくてもすむ・・
とペンダントをよこした。

そのとき・・ペンダントを初音の首にかけてくれる時のあの気持ちは・・?
動悸をもてあましながら、初音は深く考えるのをやめた。

三日後。
沙斗が目を覚まし、やはり「あなたは誰?」の第一声を発したとの事を水際から聞く。
初音はもう一つの仕事である、これまでのいきさつを話す役目を終える。
沙斗は、それを受け入れたようだった。

二人が帰る日。
初音がつけていたペンダントを見て、沙斗が言う。
「素敵な首飾りですね。異国のものかしら」

その一言で、初音は全てを理解することが出来たのだ。
その事実とは・・


面白かったです。
誰が死ぬわけでもなく、悲しいわけでもない。
ファンタジックさを感じるけど、実は少し悲しいストーリーだったりして・・。
謎めいた話だった。
おとぎ話みたいだった。
でも、面白い。


ダイヤモンド・リリー

ぼく、みなとが産まれる時のことだ。
母が入院中、花屋で働いていた美帆子ちゃんがお見舞いに来たことが始まりだった。
何故だが出産に立ち会うこととなってしまった。

母と助産師さんを除いて、初めて会った女の人が美帆子ちゃんだったのだ。
だからぼくの初恋は美帆子ちゃんだ。

歳の離れた初恋の相手。
美帆子ちゃんは母の友達で、よく家に遊びにくる。
大人にしては背も小さく、髪がさらさらで、母よりもずっと若く見える。
恋人の川瀬くんは、スノーボードの選手で年中山にこもっているから、今年のクリスマスプレゼントも帰ってきたらもらうらしい。
欲しいプレゼントは、ダイヤモンドの指輪なんだと言ってた。

母がダイヤモンドの指輪を持っているのを思い出し、聞いてみる。
「お母さんの持っているダイヤモンドの指輪は高いの?」
母は答えた。
「安い、安い。あれでお母さんと結婚できるんなら、安いものよ。」
ぼくはダイヤモンドが安いと確信した。今度川瀬くんに伝えようと思った。

クリスマスの少し前、いつもは美帆子ちゃんと二人で帰ってくるはずなのに、川瀬君は一人で帰ってきた。
チャンスだと思い、美帆子ちゃんに今年は何をあげるの?
と聞くと、意外な答えが返って来て・・・


9歳の少年が、初恋の人のために奔走する姿はとても微笑ましく、大人の身勝手さに、何だか憤りを覚えたりして。
こういう嘘だったら、嬉しいよね・・。っていう感じです。

②につづく。