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サマータイム

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佳奈が十二で、ぼくが十一だった夏。どしゃ降りの雨のプール、じたばたもがくような、不思議な泳ぎをする彼に、ぼくは出会った。左腕と父親を失った代わりに、大人びた雰囲気を身につけた彼。そして、ぼくと佳奈。たがいに感電する、不思議な図形。友情じゃなく、もっと特別ななにか。ひりひりして、でも眩しい、あの夏-

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佐藤多佳子さんの本です。

何か本が読みたくて、本屋をうろうろしていると
あの『黄色い目の魚』が文庫化しているじゃないですか!
まあ単行本で持ってるので、買わなかったですけど・・

代わりに、他の文庫をみてみたら・・ゆうきさんが紹介していた『しゃべれどもしゃべれども』があったので迷いました。

でも、文庫の裏のあらすじを見てこの『サマータイム』を買う事に決めたのでした。

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サマータイム
五月の道しるべ
九月の雨
ホワイト・ピアノ

物語は、十一歳の進、一つ上の姉・佳奈、十三歳の広一が織り成す物語だ。

サマータイム」では進の語りで
「五月の道しるべ」では佳奈の語りで
「九月の雨」では広一の語りで
そして最後にまた「ホワイト・ピアノ」で佳奈の語りに戻る。

十一歳の進が偶然出会ったのは、右腕しかない二つ年上の男の子、広一だった。
歳よりも大人びて見える広一は、ピアノを弾いて聞かせてくれた。
父と左腕を事故で亡くし、ジャズピアニストの母と二人暮しをしているという。

右手だけの音で聴かせてくれたそれは、ジャズのスタンダードナンバー『サマータイム

その音は、進の心にとても強く残った。

姉の佳奈が作ったブルーのしょっぱいゼリー。
駆け足で過ぎていったひと夏の三人の物語・・

やがて広一は引っ越してしまい、会う事もなくなって数年。

進が17歳になり、突然尋ねてきた広一との再会。

広一との出会いと、サマータイムの音。
ピアノを習い、ジャズ研に入った進は何故かそれを言い出せなくて・・
(「サマータイム」)
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もどかしくて、淡い想い。

佳奈と広一の話がとてもいいです。

お互い好きだったのに、大喧嘩をしたきり疎遠になった二人。

それぞれの語りがあるので、二人の想い、気持ちが分かるのでとてもドキドキします。

弟の進にとってヒステリーをよくおこし、自分の思い通りにいかないとすぐにあたりちらす、だけど黙っていれば美人の姉、佳奈はちょっと厄介な姉なのだ。

そんな姉、佳奈は
ずっとずっと小さい時から、弟が自分よりいい思いをしないように、気をつけて見張っていたのだ

美人でツンツンしている佳奈の想い。

「五月の道しるべ」と「ホワイト・ピアノ」はそれぞれ年齢が違う佳奈の話なので、違って読めて面白いです。

クールで落ち着いた大人、というイメージだった広一も、実は・・
っていうのが分かる「九月の雨」

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時に切なく、真っ直ぐで眩しい・・
10代の頃の淡い想いがよみがえってきて、読後も爽やかです。

「黄色い目の魚」も素敵だったけれど、「サマータイム」もとても素敵な物語でした。

日常に転がっているような、平凡な毎日も、
佐藤さんの手にかかると素敵な物語に変わってしまうようです。

ぜひぜひお試しください。