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傲慢と善良

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婚約者が忽然と姿を消した。その居場所を探すため、西澤架は、彼女の「過去」と向き合うことになる―。

辻村深月さんの本です。
個人的な意見ですが、辻村さんの本のタイトルは毎回ちょっと微妙だなあと思ってしまうのですが(取っ付きにくそうなタイトルだったり、しっくりこないことが多かったりします)、今回はまさに「傲慢と善良」しかないなと思わせる内容でした。

冒頭から、何かから逃げてきたと思われる主人公の真実が、婚約者の架に助けを求める不穏なシーンから始まります。そして、第一部ではある日突然失踪した真実を追う架が、真実の家族、元同僚、友人に会うことで、架も知らなかった真実の一面が見えてきます。

ストーカーに遭っているという真実の言葉を信じ、地元で婚活をしていた時に出会った人が怪しいと思って話を聞きに行くものの、ストーカーをしている人間が見えてこない。更に真実と係りのあった人物に会っていく中で、架自身の女友達から、衝撃的な事実を告げられます。

(若干ネタバレあり)
私も女だからか、ストーカーの一件は予想通りでしたが、真実の言葉を一つも疑わない架という人物もある意味「善良」な人間なのでしょう。架の女友達の辛辣な意見はグサグサと刺さり、読んでいて苦しいのに、惹きつけられて目が離せない。同性同士の遠慮のない意見や目線は、相変わらずの辻村さんで、上手いです。

また、辻村さんが描く「田舎に住んだ経験がある人にしか分からない都会への劣等感」は、まさにその通り!としか言いようがないくらい田舎出身の私も毎回共感してしまいます。今回も群馬に住む真実の葛藤や劣等感が凄く良く分かって、感情移入してしまいました。相変わらず母親との関係ももやもやとする感じではありますが、上手いんですよねえ。辻村さん、本当にあなったって人は。

30歳過ぎで実家暮らしの未婚の男女の、生涯未婚率を押し上げている原因のひとつには、実は過保護なほどの親の影響があるのではないか、とこの話を読んでいて思ってしまいました。結婚はまだしないのか、と急かす一方で、いくつになっても「子供」の世話を焼くのが当たり前と思っている親たち。結婚しないことを嘆きながら、内心は親の手の内に収まっていることを嬉しくも思っている親もいるのだろうなあと感じました。

真実のように、このままでは駄目だ、と群馬からでは近い距離ではあるものの東京に出て一人暮らしをする、という決断ができる人ならいいけれど、結局現状維持のまま田舎に留まっている人も沢山いるわけで・・・。考えさせられますね。

また、今回共感したことの一つに、架の婚活に対する思いがあります。
比較的抵抗感のない友人の紹介、合コン、婚活アプリなどを経て、街コン、お見合いパーティー、そして最後に結婚相談所・・・と思っている人は沢山いると思うのです。私も色々やって駄目なら、結婚相談所か?と思っていた口なので。けれど、この物語に登場する小野里の辛辣な言葉が刺さります。

【結婚相談所は最後の手段ではない、ということを覚えておいて】

架と真実のように婚活の結果、出会えればいいのでしょうが、100%ではない相手と連絡を取り合って、あまり楽しいと思えなくても一緒に出かけて、結婚の可能性を考えてみるけれどやっぱり違う、今度は別の人に・・・と出口の見えない活動をひたすら続けていかなければいけないわけですよね。

しかも自分の意思で活動を休むことも自由だから、いつまでもゴールが見えず、終わらない。そして自分にとっては例え気のない相手だったとしても、その相手から断られたらそれでもいちいちショックを受けて、少なからず傷つく。そしてまた思う「また振り出しに戻ったのか」という落胆。。

架のようにたまたま婚期を逃したリア充で異性にも持てるような男性ですら、40歳近くになっても「未婚」であることで、「売れ残り」扱いされてしまう。

真実のように、自分は理想が高いのか、この人は無理だと思い、やはり「この人ではない」と思ってしまう傲慢さ。
自分も婚活を経験して結婚した人なので、描写のリアルさに驚くと同時に、共感しましたね。

この展開から、後半は「青空と逃げる」とリンクした話になっていたり、東北の被災地のボランティアに絡んで感動的な展開になっていたのが唐突で少し違和感はあったものの、この場所での活動が真実を変えた訳で、架との関係も含めてほっとする結末だったので結果的には良かったのかなと思います。

冒頭からずっと続いている不穏さ、物々しさ、女目線の毒々しさで苦しめておいて、ラストは優しく幕を閉じる辻村さんの描く物語のパターン。安心して読めます。面白かったです。
(4.5点)