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てのひらの父

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世田谷区、松陰神社前駅から徒歩15分。女性専用の下宿「タマヨハウス」には、年ごろの三人の女が暮らしていた。弁護士を目指す涼子、アパレルのデザイナーとして働く撫子、そして不条理なリストラに遭い、人生にも道にも迷い続ける柊子。幸せでも不幸せでもない日常を過ごしていた彼女たちだが、春の訪れとともに現れた真面目だけが取り柄の臨時管理人の過干渉によって、少しずつそれぞれの「足りない何か」が浮き彫りになっていく。


大沼紀子さんの本です。
 
話題の「真夜中のパン屋さん」は、そこそこ楽しめたのだけれど、自分的にはもうちょっと面白いかと思ったのだけれどなあ、という印象でした。
書店で見かけて、真夜中のパン屋さんの人と思わずに予約していたので、「あー同じ作家さんなんだ」とあまり期待せずに読み始めたところ、これが私のツボでした。
 
父親を題材にした話って、多分自分の父親もろくでもない人だったので、色々物思う事があるのですね。
主人公に物凄く感情移入してしまったり、そんな綺麗事ばかりでは現実はないよ!と憤ったり。
そういった意味で、凄く自然に受け止める事ができる話だったなあって思いました。
 
幼い頃に父親を亡くしたため、ほとんど記憶にない柊子。
父親の理不尽な暴力で片耳の聴力を失った姉。母親にすら、父親に似ているというだけで存在を否定されてきた姉と、父親の死を自分とは関係ないことのように思えてしまっていた妹。
 
多分、こっちの話をメインにしていたら、これほど楽しめなかったと思うのです。
メインは、どちらかと言えば、下宿先の管理人と住人との出来ごとであり、どの登場人物も完璧な人間ではないけど、良い部分も悪い部分も愛すべきキャラクターばかり。
ちゃんと、無理なく前向きで温かく物語が締めくくられているのも凄く良かったです。
 
何より、管理人のトモミさん!
強面で不審者と間違われるような外見だけど、料理も上手で編み物も上手、年中行事にはしっかりと手間と時間をかけて、不審な人物が住人に近づいたら投げ飛ばしてくれるし、悩みや複雑な家庭事情など、改善させようと奔走してくれる。何より、住人達の事を信頼し、親身になって相談に乗ってくれる。
お父さんみたいな存在。
こんな管理人がいる下宿があったらぜひ入居したいです!
 
入居者も26歳~30代半ばの女性までと妙齢の女性達なのですが、大人になってもまだまだ子供みたいな部分、割り切れない部分などを抱えているんだろうな、と無理に理想的な大人像が描かれていない事も好感が持てました。
 
素敵な作品でしたので、ぜひぜひ!