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スリーピング★ブッダ

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禅宗の最大宗派である敬千宗の大本山・長穏寺。修行が厳しいことで知られるこの寺に、二人の若き僧侶が上山した。北陸の古寺の跡取りとして真摯に禅宗と向き合う小平広也。バンドでプロを目指すも挫折し、「安定した就職先」として寺に飛び込んだ水原隆春。対照的な二人は、修行の日々を通して、寺のさまざまな問題に直面する。世襲がはびこる旧弊なシステム、先輩僧侶たちのイジメ、清貧とはほど遠い生活、そして、本来人々を救うためにある宗教が最後の砦として機能していない事実…。宗教が持つ清濁に翻弄される二人が辿り着いた理想郷とは?


早見和真さんの本です。
 
ユーザーレビューを見ると、評価が二分されていて興味深いです。
私的には、4.5点付けたい作品。
 
何だか色々な事を考えさせられる作品だったなあと思います。
全く目的も目指す道も異なる二人の青年――寺の次男として生まれ、事故により跡取りの長兄と母を亡くし、跡取りとなることになった広也とバンドでプロを目指すも道が開けず「安定した職」を求めて全く経験のない仏教の道へと進む事になった隆春。
対象的な二人だが、互いの仏教への気持ちだけは共通するものがあった。
修行のために寺へ上山することになった二人だが、そこには先輩僧侶らの陰湿ないじめや、退廃したシステムがはびこっていた――


冒頭から数ページ、この物語の行く先が見えてこなかったところまで、どういう話なのか全く想像がつかなかったのです。
タイトルからして、仏教に関わる事なのかな?と察する事はできるけれども。
そこから、バンドデビューを目指していた隆春の話が入ってきて、どうなってしまうの?と思いながら、上山。
二人が修行に入るあたりから、俄然物語は面白味を増していきます。
想像とは異なる現実。
いじめや周囲からの期待・圧力に耐え切れず、自殺未遂まで起こしてしまう友人。
上に立つものが酒を飲んだり夜遊びしたり、上下関係の厳しさにかこつけて威張り散らす先輩僧侶。
そんな現実を目の当たりにしながらも、自分が信じてきた道、どうあるべきかを、常に迷いながら少しずつ進んでいきます。
 
紆余曲折を経て、3人が一つの寺を動かしていく、となったとき。
このまま平穏な生活が続く訳ではないのだろうな、と思っていても、一時確かに期待をしてしまうほどこんな日々が続けばいいのに・・・と、登場人物にでもなったかのように安堵している自分がいました。
 
しかしそれぞれ求めている道が違う事が、確かな距離となって表れ始める頃から・・・一体どうなってしまうのだろう?と不安に思いつつ、新興宗教へとシフトしてしまうのは残念な気持ちになりましたが、それでも広也の変わらない強い思いはぶれることがなく、そこだけは安心できましたね。
 
とにかく、宗教というのは奥が深い。
自分が良かれと思った事を、決して押し付けたり強制してはいけない、ということを広也は常々説いているけれど、うんうん頷きながら読んでいました。最近宗教勧誘されて頭を悩ませているもので・・・。
 
何より早見さんの文章の読みやすさ。
そして登場人物のなんと魅力的なこと!
これで早見さんの作品は3作目ですが、何でこんなに魅力的な人物達を生き生きと描けるのかなあ!と感心しきりでした。
 
「安定した職」を求めて坊主に志願した隆春の自由さ、凄く格好良かったな。
広也と隆春の行く末は別々でも、縁が切れない二人の一本の芯が通った意思の強さは読んでいてとても清々しかったです。