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砂上のファンファーレ

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いつの間にか蝕まれていた一家の理想。誰もがそれに気づかないふりをしていた―。家族って何だ?次々と襲い掛かる、それぞれの現実。


早見和馬さんの本です。
 
早見さんと言えば、デビュー作「ひゃくはち」のヒット・映画化と話題になった作家さんでしたね。
面白くて印象に残った作品だったので、映画を見逃したことだけが心残りだったり(映画の評判も良かったので)。
 
そして久しぶりに見かけた早見さんの作品。
気になって予約していた本でした。


うわーん!何これ!
ヤバかった。
あまりにも境遇が似すぎていて、泣けてきたよ。。
 
とにかく、上手い。
なにはなくてもこの文章の読みやすさは群を抜いて素晴らしいです。
そして、家族4人のそれぞれの想いが、読み手が不安になるくらいに真に迫ってくるのです。
 
突然物忘れがひどくなり、「自分はおかしくない」と必死で思いこもうとするのに、思う通りに言葉が出てこなかったり、果ては家族の顔や名前まで忘れてしまったりと、泥沼の母。
都会の裕福な家庭に育った母と、田舎生まれの父。
経営が立ちいかない事業を何とか回すべく破産という道を選ばずに両親共に働いて何とか生活を続ける中、確実に返済できないローンや保険の支払いなどは溜まっていく。
母の勤めも辞めざるをえなくなり、それでも残るローン。
それなりに幸せだと思ってきた人生が、少しずつ歯車を狂わせ始める。
 
長男の責任という重みを背負い、しかし何処かで冷めている長男。
身重の妻と、自分の家族との距離感にも悩んでいる。
 
次男故のお気楽さで、何とかなると楽観的な弟。
家族ごっこが、茶番に思えて仕方がない。
 
家族に包み隠さず弱さも全てをさらけ出してきた父。
外の世界と闘う事を放棄しているのか、それとも家族を守っているのか?
 
そんなそれぞれの想いを抱えた家族が、母親の病気を期に少しずつ家族のありかたを見つめなおして行く事になります。


私も母親が病気をして、そして父親に多額の借金があることが分かった口なので(それでも、生活のために借金したこの物語の両親はまだ救いがあると思う)、家族のためにお金を入れたり一番苦労してきた兄の姿も何処かこの物語に出てくる長男にダブルところがありました。
まあ、自分の妹は残念ながらこの次男とはちょっと違っているのが難点でしょうか(笑)
 
生活のためにお金を借りる、けれどもそのお金が払えない――という悪循環。
お金がないということは、どれだけ人から余裕を奪うのかを十分理解している私としては、この家族が抱える心情があまりにもリアルで怖いくらいでした。
そして長男の嫁の考え(親は子供にお金を出させたりしない。親が努力すればそんなこと絶対にさせないはずだ)には全く納得できなかったですね。
それができないほど貧乏を経験したことがないから言えるのだ、と思います。
 
ただ、物語は最後にはちゃんとハッピーエンドで終わるし、読み終えてとても晴れ晴れしています。
 
重松清さんの家族小説や、奥田英朗さんの家族小説などを思い起こすような、大変素晴らしい作品でした。
 
家を失った経験がある自分としては、やはりどうしても家に対して固執した気持ちはあります。
でも、家族ってこんなに温かくて強い絆で結ばれているんだなあと思えて、とても満足しました。
 
個人的に弟の明るさには読んでいても随分救われたかなあ。
やっぱり長男には責任感が強く出過ぎてしまうのか、融通が利かない部分ってありますよね。
何事も楽観的な考えは自分も持てないタイプなのですが、前半の暗めな展開に唯一明るさを見いだせるキャラクターでした。
 
良作です!