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六月の輝き

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戻りたい──いちばん美しい季節の光の中へ
同じ誕生日、隣同士の家に生まれた美奈子と美耶。互いに「特別」な存在だった。11歳の夏、美耶の「ある能力」がふたりの関係に深い影を落とすまでは・・・。純粋な想いが奇跡をよぶ、「絆」の物語。


乾ルカさんの本です。
 
あーヤバかった。
最後の最後で目に涙が盛り上がってきてしまった。
不覚にも泣きそうになりました。
 
やっぱり乾さん良いです。
前作の「蜜姫村」では、ホラーとファンタジーが混じり合ったような絶妙なほの暗さというか、個人的にはかなりありの作品を届けてくれた訳ですが、本作はミステリというくくりが一番しっくりくるのかな。
 
人に触れるとその傷や痛みを切り取る事ができ、壊れた物に触ると元に戻すことができる――
だけどそれは、決して前と同じ状態ではない。
一度壊れてしまった時間を元に戻すことができるだけ。
一度は壊れていなかった物や、息絶えた者を復活させたように見えるが、ただそれは時間を逆戻りさせて息絶える前の姿に、壊れる前の状態に戻せるだけなのだ。
 
ある出来事をきっかけに、神様の子と話題をさらった美耶。
美耶の友達だった美奈子。
 
一つの出来ごとが、二人の関係を壊す――
行き場のない思いを、相手への憎しみという形にしかできなくなった美奈子。
そんな美奈子との関係の修復を望む美耶。
 
二人が抱えた想いは、数年の時を経て少しずつ修復されていく。
 
小学生の美耶と美奈子が、高校生になるまでの濃密な数年間が、本人や周囲の人間(クラスメイト・母親・関わった人間)の語りを軸に展開されていきます。
 
前半、あまりにも暗い未来しか見えない息の詰まるような感覚に逃げ出したくなりそうになるのに、それでも目を逸らす事ができない。
痛くて、辛くて。
それでも確かに待っている未来は、悲しい結末でも鮮やかでした。
 
他人の傷を移動し、その分自分にダメージを与えてしまう、という点では、乙一さんの「KIDS」が浮かびますね。
乙一さんのやつは、他人の傷を受けた人間の所に移動することができるという話だったけれども、本作の美耶は、他人や物の時間を戻して修復や一時的な回復をさせることができる変わりに、自分の寿命を縮めてしまうという、リスクがとても高い展開なので、少しずつその「神様」の力の真相が明らかになるにつれ、読んでいて辛くなってくる部分はありました。
 
それでも、美耶がいつまでも純粋で優しい心を持ち続けているからこそ、の結末であり、悲しいはずなのに感動すら覚えるのでした。
良作です。