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月と蟹

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「ヤドカミ様に、お願いしてみようか」「叶えてくれると思うで。何でも」やり場のない心を抱えた子供たちが始めた、ヤドカリを神様に見立てるささやかな儀式。やがてねじれた祈りは大人たちに、そして少年たち自身に、不穏なハサミを振り上げる―やさしくも哀しい祈りが胸を衝く、俊英の最新長篇小説。


道尾秀介さんの本です。
 
やっと手元にやってきたー!
道尾さんの作品は、読む前にドキドキワクワクしてしまいます。
 
真備シリーズみたいなコミカルな展開か、もしくは「向日葵の咲かない夏」のようなおどろおどろしい感じか、あるいは「ラットマン」のようなどんでん返しの待つミステリ展開なのか、それとも最近の文学色の強い作品のような感じになるのか。
 
今回は冒頭からラストまで、文学色の強い作品でした。
ある意味で正統派。
ミステリ、ではなかったですね。
 
道尾さんの作品は、物凄い残酷な展開かハッピーではないけれど希望のある終わり方か、後味の悪い余韻を残すのか、と色々ある訳ですが・・・
この作品は冒頭から不穏な雰囲気が満載でした。
 
道尾さんが描く小学生は、やけにリアルなんです。
 
大人はずるくて計算高いけれど、子供は無垢故にそれが仇になって残酷さが増す気がするのだけれど、無邪気故にその残酷さが際立って怖い。
 
クラスに溶け込めず、お互い転校生という共通点のある友達との交流がほとんどの主人公。
何気なく始めた「ヤドカミ」様の儀式。
そこで祈った願いが叶ったのだが――
 
女同士の友情はもっと面倒だけど、小学生という狭い世界の中で唯一心を通わせる事ができる友達という存在も実はもっと複雑で面倒なものなのかもしれない。
 
二人だけの世界に、一人の女の子が加わる。
二人という均衡を保たれていたものが、少しずつかみ合わなくなっていく感覚。
 
片親故なのか、マザコン、と言ってしまったら単純だけど、それだけではいい表せない母への感情。
母は母親だけれども、女でもある。
 
母を、別の相手に取られてしまうかもしれない――
 
そんな感情が膨らんで、いつしか主人公がヤドカミ様に祈った願い事は・・・


光は、見えるのだろうか。
ぎくしゃくしていく家族関係、たった一人と言える友達との亀裂。淡い想いを抱くクラスメイトとの距離。
 
全編に漂う不穏な空気。
だけどこれは決して不快ではない。
 
ハッピーエンドではない。
けれども、心を打たれる何かが残る作品。
 
深い。
そして、この世界、嫌いじゃない。むしろ好き。
 
道尾さん、やっぱり良いです。
今度こそ直木賞受賞なりますかね。
 
でも、何だかんだとそれはそれで寂しいんですけどね。。