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ヤフーblogから移行しました。

YAHOO!文学賞のノミネート作品発表。(1)

2月上旬に発表予定とか言っていたのに、下旬ですよね。遅すぎ(笑)

選ばれるわけはないと思いつつ、結果が出るまでハラハラしていた自分ですが、選ばれたら事前に連絡がくるはずだから、まあその時点でダメだったんだけど。

今回の応募総数は2,021作品だったそう。
だんだん応募数が増えてきている気がしますね。

とりあえずダメだったのですが、書いた作品を今回も公開させて頂きましょう。
え?時期外れ?
そうですよ、だって応募締め切りがクリスマスイブだったんですもの(笑)

そして今回のお題はサプライズでしたので、こんなんできました。
前回初めて応募したときよりは、着実に成長しているとは思いますが(最初の作品は、基本がなってなかった)・・落選作品でありますので、あしからず。

また、今回応募するにあたってアドバイスいただいた友人達に感謝いたします!




【聖なる夜の侵入者】

 扉が、ゆっくりと閉じていく。
少女は静かに目を閉じ、数秒経ってから目を開く。そこにはもう、つい数秒前まで無邪気
に浮かべていたはずの微笑みは残っていなかった。
 少女は踵を返して二階へと向かう。一つに束ねた長い髪がさらりと揺れた。一段一段踏
みしめるように階段を上がりながら見せたその横顔。鈍く鋭い光が宿ったその大きな瞳は、
少女と呼ぶには似つかわしくない程、大人びたものだった――

 その夜、少女は二階にある月明かりの漏れる薄暗い部屋にいた。
時刻は夜の十一時半を少し過ぎた頃。淡いピンク色をしたカーテンをそっとめくり、窓の
外を眺めると、広い庭の向こう、そこかしこに聖夜を彩るクリスマスのイルミネーション
が夜の闇をキラキラと照らしている。少女が大きな目を細めて微笑を浮かべ、そっと窓か
ら離れたその時だった――ドスン、という大きな音と何かが壊れたような派手な音がして、
少女は反射的に部屋の隅に身を潜めた。
 一体何があったのか。この家の中に少女以外の誰かがいるはずがない。少女は酷く強張
った表情を浮かべ、少しの間何かを探るようにその場に立ち尽くした。そして、唇を引き
結び、意を決して部屋を出た。物音を立てないように、ゆっくりと階下へと下りていく。
保湿の為か、白い薄手の手袋をはめたその華奢な手でドアに触れ、そっと開く。侵入者を
不意に驚かせてしまうような、もしもの事があったらいけないと思ったのだろう。リビン
グを明るく照らし出してくれるその灯りをつける事をしなかった。
 少女は、リビングの――普通の家にはまず存在しないだろう暖炉の中に、白と赤のサン
タクロースの衣装を身に纏い、白い口髭をつけた見知らぬ男の姿を認めた。男は、埃まみ
れの顔を歪め、強く打ち付けたらしい尻をさすっている。
「……あなた、誰なんですか! 勝手に人の家に上がりこんで!」
 少女は大声をあげ、ほんの一瞬、探るような目で男を見た。その声に驚き、体を強張ら
せた男が、まじまじと目の前の少女を見つめた。
――迂闊だった。ドアに可愛らしいクリスマスリースが飾られた、広い玄関。大きな庭を
囲む立派な塀。さも偶然を装って周囲をぐるりと一周し、玄関以外には灯りが漏れていな
い事を確認し、静寂に包まれたこの家を見ていたから、家主が留守であると都合良く思い
込んでいた。まさか娘と鉢合わせてしまうなんて――と男は思う。
「勝手に……そうだな。そう言われても仕方がないかもしれないな」
 男は言いながら少女から目線を逸らし、やけに落ち着いた動作で暖炉の中から這い出し
のっそりと立ち上がる。そうする事で、ざわついた心を落ち着かせようとしていたのかも
しれない。男が少女の目の前に位置を落ち着けると、少女が反射的に一歩後ずさる。少女
は小柄な体を自分自身で抱きしめるようにしながら、その大きな目に警戒の色を隠さなか
った。男がじっと少女を見つめていた事もまた、警戒を強める要因になっているのだろう。
「仕方がないって……そんな訳ないじゃない。あなた、一体何なのよ」
 先程の威勢の良さは何処へ行ったのか、少女は怯えた様子で声を震わせながら反論した。
男は一瞬考えるような素振りを見せてから、一息にこう言った。
「俺は、サンタクロースなんだ」
「嘘。あなたが、サンタクロースの訳がない」
 男の突拍子もない発言に、少女は一切動じる事無く即座に否定した。少女は小柄な体を
大きく見せるかのように、ピンと背筋を伸ばし一息にこう言った。
「あなたは、そう……サンタの格好をした、ただの泥棒ね」

「……クリスマスに、サンタクロースの格好をした人間が煙突から落ちてきたら、サンタ
以外にありえないだろ?」
 男は埃まみれになっている顔をしかめ、大袈裟と思える手振りを交えてそう言った。
――少女が指摘したように男はサンタクロースではない、ただの泥棒であった。空き巣や
オレオレ詐欺といった『仕事』をし、その日暮らしの生活をしていた男は、好青年と言わ
れる事はあっても犯罪者と疑われる事など絶対に有り得ない、優しげな顔立ちをしていた。
しかしその顔立ちに反して、すらすらと偽りの言葉を吐きながら平気で嘘をつく事に罪悪
感など抱かない男でもあった。だからだろう。少女の存在には確かに驚きつつも、正体を
暴かれたというこの状況下で、男はすぐにいつもの調子を取り戻していた。
「でも、サンタクロースの格好をした泥棒が、煙突から侵入しようとして落ちたっていう
事も考えられますよね?」
「確かにそう思われても仕方がないかもしれない。だけど俺は、本物のサンタなんだよ」
 男の言葉を受け、少女はふと何かを探すように周囲に視線をさ迷わせた。
「あなたがサンタなら」少女はそこで、強い視線を男に向けた。
「当然プレゼントを届けに来てくれたはず。なのに、見たところあなたは何も持っていな
い。サンタクロースは、白くて大きな袋の中にプレゼントを入れて、それを担いでやって
くるものだと思うんです。だけどあなたは、その袋を持っていない」
「それは――」男は一瞬、考えるような仕草をした後、尤もらしい台詞を言ってのける。
「知らないか? 今時のサンタクロースっていうのは、昔みたいにあの大きな袋を持って
はいないんだ」
 訝しげな表情を浮かべた少女は、呆れて返す言葉も見つからないのか黙って男の言葉を
聞いている。男は続けた。
「確かに、あの袋を持っているサンタはいる。だけど俺は、君のような――高校生くらい
の子達にプレゼントを届けるサンタなんだよ。今時の高校生が、おもちゃやぬいぐるみを
もらって喜ぶと思うか? ブランド物の財布を当たり前のように持ってるその子達へのプ
レゼントは、必然的に小物が多くなる。それはつまりあの袋は要らないって事だ。だから
俺がそれを持ってない事は何処もおかしくなんてないし、今のサンタ界では常識だよ」
 男は強引とも思える断定的な口調で持論を展開した。少女は眉間に皺を寄せ、その整っ
た顔には似つかわしくない、しかめ面を浮かべて反論した。
「それじゃあ私には、何をプレゼントしてくれるつもりなんですか?」
 男は反論しかけて――諦めたように口を噤む。
「やっぱり嘘ですね? あなたはプレゼントなんて元々持ってない。サンタだなんて、嘘
に決まってる」
 少女は追い討ちをかけるように、冷たい目を男に向けて言った。
「反論出来ないんですか? それじゃあ、やっぱり――」
「……知らなかった? サンタは子供達が望んだプレゼントを届けに来てくれるって」
「……でも肝心な、そのプレゼントがないじゃない」
「だから――」男はにこやかに笑みを湛えて言った。
「俺は事前に君の欲しい物を調べることが出来なかった。サンタもね、子供達が一番欲し
いと思っている物を届ける為に、事前に調べてるわけ。だけどね」
 そこで一旦男は言葉を切り、考えるような素振りを見せた。そのわずかな時間すら苛立
たしいのか、少女は「だけど?」と訝しげな表情を崩さずに先を促した。
「沢山の子供達にプレゼントを渡すサンタは、絶対的に人手不足なんだよ。勿論俺一人し
かいない訳ではないし、それなりに人数はいるけどね。それでもやっぱり、事前にそれを
把握出来ない子も、出てきてしまう訳だ。……それが、君」
「……私?」
「そう。だから俺は、今君の欲しい物を聞く。その後、君が眠りについて朝目が覚めた時
には、きっと枕元に欲しかったプレゼントが置いてあるはずだ。だから聞くよ。君が欲し
い物は、何?」
「……欲しい、もの?」
 男を警戒心と不信感で一杯の目で見据えていた少女の目が――その時ほんの一瞬だけ、
鋭い光を帯びたように見えた。少女は俯き、呟く。
「何でも、欲しいものをプレゼントしてくれるの?」
 そして少女はゆっくりと顔を上げた。大きな目を少しばかり寂しげに曇らせながら、男
の目を覗き込む。
「ああ。俺はサンタだからね」 
少女のその大きな瞳からは、先程まで男に見せていた警戒心剥き出しの感情は見えない。
それどころか、少女がいつの間にか自分を信用し始めている事に男は気付き、うっすらと
だが、そこで初めて少女に対して罪悪感を覚えた。咄嗟に嘘をついたとは言え、その嘘の
上では今の自分はサンタなのだ。それならば、サンタらしい事くらいはしてあげても良い
のではないか。それに、結局はこの家の金目の物は粗方頂くつもりなのだから――と男は
思う。
「私は」少女は言った。

(字数制限のため、2に続く)